この記事の連載

 何気ない日常の中にある「しんどさ」や「愛しさ」という感情をすくいあげ、丁寧に分析を重ねて誰しもが共鳴できる作品へと昇華していく漫画家、冬野梅子さん。代表作の『まじめな会社員』『スルーロマンス』(いずれも講談社)など、読者の心の中に確かなひっかかりを残していく冬野さんの作品は “不器用な人たち”のリアルを描き、多くの読者の共感を呼んでいます。

 そんな冬野さんが、Xにこんな呟きを。

去年まで2年ほど自分の中ですっぴんブームがあったんだけど、今年はメイクブームが来た。人工的な顔を作ってくのが楽しい。人工的な顔はキレイとか可愛いよりパワーというか圧を出していく方向に知恵を絞ってあれこれ試すのが楽しい。
すっぴんブームはそもそも夏にメイクするの意味ない…と思ったのが始まりだった。顔汗がすごいのでメイクが持たないし加えて"こまめに日焼け止め"とか言われても…という。
(2025年3月26日 冬野梅子さんXより)

 冬野さんが考える「圧を出していく」メイクとは? 冬野さんの美容にまつわる半生を振り返っていただきつつ、漫画家、表現者として生きる彼女のメイク哲学について伺いました。

【冬野梅子】「メイクは“嫌われる顔”をつくるツール。圧を出せれば疲弊しないんです」漫画家ゆえに抱える外見の悩みとは


「なんでブスに産んだんだ!」顔のコンプレックスから美容に目覚めた

――冬野さんがメイクや美容に興味を持たれたのはいつ頃ですか?

 小学4、5年生の頃だと思います。アイプチを親に買ってもらっていたので、美容に興味があったというよりは、顔のコンプレックスを感じるのが先だったと思います。

――小学生でアイプチとは、当時だと早いほうですね。

 学校で先生に全然バレなかったんですよ。うちの母は学校に化粧をしていくのを絶対許さないタイプだったのですが、アイプチに関しては私が本当に一重で悩んでいて、毎日親に「なんでブスに産んだんだ!」と問い詰めていたので、いい加減ウンザリしたんでしょうね(笑)。

 母も、子どもの頃は片方だけ一重でそれが嫌でまぶたに両面テープやセロハンテープを貼っていたらしくて……。だから、アイプチはメイクに入らないという判断だったのかも。母のなかでチャラチャラするイメージとは違ったのだと思います。

――アイプチ以外の化粧品に興味を持ったのも小学生の頃?

 母の口紅を遊びでつけたりするのは幼稚園の頃から覚えがあるので、幼い頃から「女性はメイクをする」と思ってはいたと思います。

 ちゃんとメイクをし始めたのは多分高校生に入ってから。中学校を卒業するころにはアイプチをしなくても二重になったので、そのぐらいから普通のメイクを楽しんでいた感覚はありました。「メイク=大人っぽい」と思っていたので、大人ぶるために化粧品を買ったりもしていたと思います。

フリーソウルピカデリーに憧れ、マジョマジョに惚れ込んだ高校時代

――高校生の頃に買っていたメイクアイテムは覚えていますか?

 憧れていたのが、資生堂のフリーソウルピカデリー(FSP)。憧れなのに持っていなかったので、多分何かしらの理由で買えなかったんだと思います。欲しくて欲しくてたまらない頃、FSPの販売が終わってマジョリカ マジョルカが発売になり、それが本当に可愛くて! 値段的にも買えたし、メイクするというよりはコレクションするような感覚で買っていました。

――その後、新卒で金融機関に勤められた冬野さんは「社会人のメイク」をまず経験されました。

 最初は金融機関だったので、派手なメイクは誰もしていないし、私もするつもりがなくて。ファンデーションを塗って、眉毛描いて……。最初は多分ブラウンのアイシャドウとアイラインなんかも引いてたんですが、出社3日目にして「要らないな」って(笑)。朝も早かったので、日を追うごとにメイクをしなくなりました。最後はBBクリームだけ。前髪があって眉も見えなかったので、BBクリーム塗って終了という感じでしたね。

2025.06.17(火)
文=前田美保
撮影=榎本麻美、末永裕樹
マンガ=冬野梅子