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突如「おしぼりでガーッと顔を拭く、カッコいい!」に方針転換したワケ

――またメイクのお話に戻ります。会社員を辞め、漫画家になってからメイクは変わりましたか?

 漫画家になったころにはもう可愛くするよりも“老化”が気になる年齢になっていました。今までと同じメイクをすると余計に老けちゃう感じがあったんです。美容家の方はこの季節はこれを、肌質がこうだからこっちのアイテムをという感じで使い分けされると思うのですが、私はずっと同じものを使っていましたし(笑)。塗ると顔が白浮きするようになり、逆に年齢感が強くでるようになったので、だんだん化粧下地とマスカラだけとか、シンプルになってきました。

――冬野さんがXでつぶやかれていた、「すっぴんブーム」の始まりだったのでしょうか?

 私のすっぴんブームは『まじめな会社員』の連載が始まって家から出なくなったり、出たとしても2~3時間映画を観るだけだったりと、化粧をする必要性を感じなくなったところから始まりました。しかもコロナ禍でマスクをしているし……。同時に洋服もすごくラフになりました。仕事は家でやりますし、休みも合わないから友人と会うこともない。「すっぴんだけどカフェに入ってみるか!」「というか、どうせサングラスかけるし、日傘もさすからメイク、要らなくない?」と、どんどん慣れていった結果、もういいかなって(笑)。

「ネイルしてない、もうお店入れない。帰ろう」自意識の塊だった過去は…

――ここ数年、夏もかなり暑かったですよね(笑)。

 そう! 2022年までは出かけるときには化粧をしていたのですが、汗を拭いたハンカチもサングラスの鼻のところも全部肌色になっちゃうことが続いて、もううんざり(笑)。それよりもおしぼりですっぴんの顔をガーッと拭く! みたいなのがカッコいいと思うようになりました。路上で気を遣いながら汗を拭くんじゃなくて、ガーッと一気に拭く私。カッコいい!! って(笑)。

 すっぴんブームはそういう事情もあり、ある意味、実用寄りなんです。「汗を拭くための顔」みたいな感じでした。日焼け止めだけは3,000円くらいのを使っていたと思いますが、それを塗って出かけて、汗拭いて、また塗って、みたいな。

――20代の頃は原宿系だったわけですから、すっぴんはかなりの方針転換ですね。

 20代の頃も近くのコンビニくらいまではすっぴんで行けていたのですが、爪をキレイにお手入れしている人を見て勝手に「ああ、ネイルしてくればよかった。もうお店入れない、帰ろう」とか「この服変だった、どこかで買い替えよう」とかそういう自意識がすごくありました。

 でも最近は時代の変化もあり、海外からの観光客が増えたことでもガラッと変わりましたよね。海外の方って、すごくラフじゃないですか。すっぴんでファッションもカジュアルで、スパッツ一枚でも堂々としている。あの姿を見ていると、別にいいのかなって思うように。

 自分が「この人オシャレだな」って目につく人も、自分より少し上の世代になってきたんです。中年くらいのオシャレな方って、洋服はすごく高そうなんですけど、“近所だからすっぴん”という感じの人が多いんですよね。やろうと思えばできるんだけど、今日は敢えてメイクしてないんだ、みたいな。

――分かります! 手がかかっているけど、今日はたまたましてない、という感じですね。

 おしゃれな服を着てすっぴんでベビーカー、みたいなのを見かけると、すごくカッコいいって思うんです。自分がロールモデルにする年齢層や女性像が少し変わってきたんでしょうね。

 あとは髪をブリーチするようになったのもあります。ブリーチしていると言い訳が要らない。「あ、あの人オシャレな人なんだ」って思ってもらえそうで(笑)、“例外的なすっぴん”と周りが勝手に捉えてくれるかなって(笑)。

 すっぴんで新宿を歩いていたら「この人はこの辺りに住んでるんだろう」って思ってもらえそうというか。敢えてすっぴんで伊勢丹に行くのがカッコいいと思っていましたね。後篇を読む:「メイクは“嫌われる顔”をつくるツール。圧を出せれば疲弊しないんです」漫画家ゆえに抱える外見の悩みとは

冬野梅子(ふゆの・うめこ)

2019年『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後、『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)がTwitterを中心に話題に。「CREA」2022年秋号で『まじめな会社員』(講談社)が夜ふかしマンガ大賞1位を受賞。ほか著作にエッセイ「東北っぽいね」、『スルーロマンス』など。
X:@umek3o

待望の新連載『復讐が足りない』がコミックDAYSにて8/5(火)スタート!
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次の話を読む【冬野梅子】「メイクは“嫌われる顔”をつくるツール。圧を出せれば疲弊しないんです」漫画家ゆえに抱える外見の悩みとは

2025.06.17(火)
文=前田美保
撮影=榎本麻美、末永裕樹
マンガ=冬野梅子