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『地雷メイク』ってすごくないですか?

――メイクは本当に多様化してきました。今や大きな母数がフォローする“トレンド”は存在せず、誰もが自分なりの、自分が納得できるメイクをしているような気がします。

 例えば、『地雷メイク』ってあるじゃないですか。あれも、いわば昔の強いメイクの代替品なのかなと思うんです。「私はメンヘラです」と分からせるほうが強い。きちんと「私、面倒くさい女です」と言い切っちゃうというか。それを敢えてやっているんですよね。そういった意味が分かるようになったのがすごく楽しいです。

――ご自身のメイクの解像度が上がったからこそ、他者のメイクも理解しやすくなったんでしょうか?

 そうかもしれません。今まで何を見てきたんだろうって、そんな感じです。みんな、どんどん圧出していってほしい。涙袋とか、ガッツリ作って欲しい。

――冬野先生が考える『人工的な圧のあるメイク』の最高峰はどんなメイクですか?

 整形したというのが丸分かりの海外セレブの顔ですかね。多分、男性からも一番嫌われると思うんですが……。整形する=お金があるってことですから、そこも嫌われそう。今更、彼氏の意思で整形する人はいないと思うんですよ。「私は自分の金で自分の好きな顔になる」、いやもしかしたら「男の金で好きな顔にします」みたいな(笑)。めっちゃお金かかってるし、俺の意見まったく聞いてくれない、みたいな感じが最高ですね。

 いま一番好きな圧のあるメイクは、リップラインを引いて、そこにピンクの口紅を塗るというメイク。どこの何という製品を使ってつくるのが正解かは分からないんですが、いま好きなのはM.A.C。私が想像する「人の意見を聞かない人」が使うブランドといえばM.A.Cかなと思って(笑)。ヌーディなピンクでちゃんとリップラインを引いて、「私は作り物です」という人工的な感じを出したい。いま、一番目指しているところです。

 以前は赤リップが好きだったんですが、アイラインをガッツリ引いて圧を出していく方向にすると、赤リップはセクシーになっちゃうんです。それは違う。どちらかと言えば、嫌われたい。嫌われる顔を作りたい、という感じですね。

――ちなみに、好きなメイクアップアーティストさんはいらっしゃいますか?

 最近知った小田切ヒロさんをよく見てます。今年に入ってからはブラシもたくさん買いました。とにかく小田切さんはブラシを使うっておっしゃるので(笑)。

――冬野さんは漫画家なので、絵を描くことがお仕事。「顔はキャンパス」とよく言われますが、そのあたりの共通点は感じられますか?

 やることに意味があるのは一緒だなと思います。絵を描いてて、意味のない影をつけたりするとやっぱり変になるんです。適当にトーンを塗ったりすると「あれ?」ってことになる。プロのメイクさんがやっていることを見ていても、全部意味があることなんです。ようやくそれに気づきました。

2025.06.17(火)
文=前田美保
撮影=榎本麻美、末永裕樹
マンガ=冬野梅子