すっぴんを謳歌していた漫画家・冬野梅子さんにやってきた、突然の「圧のあるメイク」ブーム。
前篇では冬野さんが幼少期から辿ってきたメイク遍歴を紐解き、そこに隠された本音にフィーチャー。後篇ではいよいよ冬野さんが「楽しくてたまらない!」という“圧のあるメイク”の分析と、その効果効能に迫ります。メイクが導いてくれる貫禄が冬野さんにもたらすものとは?
» はじめから読む:「なんでブスに産んだんだ! と親を問い詰めた」漫画家・冬野梅子とメイクの出会い
「腹が出てても顔がシュっとしてればいいや」シェーディングに目覚めてメイクが楽しくなった

――先日、X(旧Twitter)で「人工的な顔」「圧のあるメイク」にハマっていると明かされていましたが……どういうことでしょう?
今年に入ってから急にメイクにハマったので、つぶやいてみました。化粧品を買いたくて色々とサイトを眺めていたら、インスタの動画に出合いまして。海外の人がフェイスラインのシェーディングをガッツリ入れて立体感を出すのが面白くて、それをずっと見ていたら自分でもトライしたくなってきたんです。
そこからさらに動画を深掘りすると、メイクをしている女性たちが“可愛く見せるため”じゃなく、自分なりの何かを目指してやっている感じがしてきて。“顔で遊ぶ”っていうか……。それで化粧品をいくつか購入して真似してみました。ここ3カ月間、遊び感覚でずっと試していましたね。
――では、最初に買ったのはシェーディングアイテムですか?
そうです。海外のリール動画だと何を使っているのかまったく分からなかったので(笑)、とりあえず濃いめのチークやファンデを買ってみたのですが、「あ、これじゃない」と気付くというのを何回も繰り返しました。
私、元々顔の骨格が小さくて、体重的には太っている重さじゃなくても顔がすぐに二重あごになっちゃうんです。顔が一番太って見えるんですよ。顔のために体重を減らすのは面倒くさいので、この際、腹は出ててもいいから顔さえ痩せて見えればいいじゃん、というのがシェーディングを試そうと思ったきっかけです。好きなだけ食べても、顔さえシュッとしてればいいかなって。
最終的には自分で開拓するのを諦めて、インスタで見つけたKANEBOのシャドウオンフェースを買いました。

――シェーディングを出発点に、冬野さんのメイクへの興味が深まっていったと。
そこからかなりメイク動画を見漁って気付くことがたくさんありました。ハイライトってすごいですよね? ないよりはいいかな程度で塗っていたのが、シェーディングが入ることでハイライトがより際立って見えたので、「あ、こういうことか!」って(笑)。
メイクは1パーツごとに全部理由があるんだというのが理解出来たので、何というか、筋トレにハマりだした人のようです。「タンパク質を食べなくちゃ!」みたいな(笑)。きっとメイク好きな方にとっては初歩中の初歩だと思うんですけど。
メイク動画を作っている人たちのリールなどを見ていて思うんですけど、あの人たちって、可愛く見られるためじゃなくて、動画向けのメイクをしてますよね。撮影用のメイクというか、「あなたの評価が欲しいんじゃなくて、私が作りたい顔を作るためにやってます」という感じ。それって、すごく正しいなぁって思っていて。
叶姉妹に文句つける人はいないでしょう?

――誰にも文句を言われないための顔づくり?
はい。可愛く見せるとかじゃなくて、面倒くさいことをごちゃごちゃ言われにくい顔。
それが、「圧」です。誰からも文句を言われない顔、この人に口出ししづらいなぁという顔=圧を私は作っていくべきじゃないかと思いました。
フォロワーが多いわけではありませんが、私は仕事柄SNSもやっているので、作品についていいことも言ってもらえるけど、嫌なことも言われる。じゃあ、日頃から圧のある感じでいれば面倒くさくないんじゃないかって。叶姉妹に文句つける人はいないでしょう?(笑)
――それはやはり漫画家としての処世術ということですよね。
やっぱり私の作品は内容が内容なので、女の自己主張というエセフェミニズムと捉える人もいるんですよね。そうなると、どうしてもそこを攻撃したり、貶めたりする人がいます。だったら、物分かりのいい賢い感じよりもドラァグクイーンのような圧をアピールしたほうがいいんだと思います。
2025.06.17(火)
文=前田美保
撮影=榎本麻美、末永裕樹
マンガ=冬野梅子