僕の人生はバグの連続。でも、それがとても面白い

――完成した映画を初めて観た時、高橋さんご自身はどう感じられましたか?

 「これは面白くなったな」と思いました。初号試写を観終わった時の手応えがはっきりあって、「これでダメなら諦めるしかない」というくらいの満足感がありました。それは非常に貴重なことで、何かに迎合せず、やりたいことをやりきれた達成感がありました。

――きっぱりと確かに確信されたのですね。泉京香とのバディ関係も、今やシリーズの定番になっていますね。

 そうなんです。ただ今回、京香は序盤あまり出てきません。原作のストーリーの部分には登場しないで、そこから別のストーリーに切り替わると登場する。そうした部分を靖子さんがうまく活かしてくれました。出てきた時の印象が強くなるように配置されていて、構成としてとても秀逸だなと感じました。

――井浦 新さんをはじめ新しいキャストの方々と、役作りについて話をしましたか。

 いえ、話さないんです、基本的に。みんな登場人物についての話はあまりしません。俳優同士、芝居で対話する、という思いで臨んでいます。

――渡辺監督とのやりとりも最小限だったのでしょうか。

 そうです。一貴さんとはもう1作目からお芝居について具体的な話はほとんどしていません。その代わり、芝居で提示していくんです。まず自分ができる限りのことを芝居で表現して、それを見てもらう。それが僕にとっての監督との対話なんです。

――露伴を演じて6年になり、いま実感されていることとは。

 2020年にこのシリーズが始まってから、ずっと幸せが続いている感じがしています。

――『懺悔室』のコピーは、「最高の幸せは“最大の絶望”を連れてくる」ですね。

 そう、ある意味で“絶望的”ですよね(笑)。この露伴を超える作品があるのかとか、今後ずっとそれを聞かれ続けるのかと思うと。でも、それでいいんじゃないかと思います。

――心からの充足感があるのですね。これから高橋さんが演じてみたい役や挑戦してみたいことは何かありますか。

 ないですね。本当に。僕自身、やりたいことはもう全部叶ってしまったと思っていて、これ以上望むと反対に怖いなと思うぐらいです。もちろん、小さな興味や願望はあるんですけれど、それを具体的な目標として掲げることはあまりしないようにしています。言葉にしてしまうと、叶わないような気がするんです。

――あえて言葉にしないようにされているのですね。

 僕は自分が“エラーコード”っぽいなと思うことがあって。エラーコードはエラーでしか対応できない。だからエラーコードなりの人生が待ってるのかと思うとワクワクしてるというくらいで、それ以外はあまり考えていないんです。予測できないことが次々起こる、まるでバグの連続みたいな人生。でも、それがとても面白い。

――どこか岸辺露伴シリーズともリンクしますね。

 まず僕らが本当に楽しんでやろうという発想自体、エラーの上に成り立っていますから(笑)。最初から、この作品はどこか“バグ”のような存在でした。それがこんなにも大きく育っていった。顔色をうかがって無難にやろう、というような空気じゃなくて、みんなで本当にやりたいことをやってきた。それが今、こんなに多くの人に届いているのは、本当に幸せなことです。

 本作は1本の作品としての強度が強いので、前作を観ていない、漫画を読んでいないという人でも、まったく問題なく楽しめるように作られています。露伴というキャラクターを知らなくても、独立した1本の映画として楽しめる。それは間違いないです。

 この作品は、よくある日本映画のフォーマットとはちょっと違うと思うんです。ハリウッド的でもないし、邦画的とも言い切れない。だからこそ、違和感を覚える人もいるかもしれない。でも、それはすごく良いことだと思っていて。「よくわからないけれど、面白かった」と言ってもらえるのが、僕らにとっては一番の幸せです。ぜひ、気軽な気持ちで観に来ていただけたら嬉しいです。

高橋一生(たかはし・いっせい)

1980年生まれ。東京都出身。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。舞台「天保十二年のシェイクスピア」(20)で菊田一夫劇賞、NODA MAP「フェイクスピア」(21)で読売演劇大賞・最優秀男優賞を受賞。主な出演作に映画『ロマンスドール』(20)、『スパイの妻』(20)、ドラマではNHK大河「おんな城主 直虎」(17)、「岸辺露伴は動かない」(20–24)、「6秒間の軌跡」(23–24)、「ブラック・ジャック」(24)など。連続ドラマW「1972 渚の螢火」(WOWOW)が今秋放送予定。

映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』

2025年5月23日(金)より公開中。
出演:高橋一生、飯豊まりえ、玉城ティナ、戸次重幸、大東駿介、井浦 新
原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴は動かない 懺悔室」(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣装デザイン:柘植伊佐夫
配給:アスミック・エース
© 2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

2025.05.23(金)
文=あつた美希
撮影=平松市聖