芸能界ってものを特別視していないんですね

――この本は、神津はづきというひとりの人間の自叙伝でもある。幼少期から美空ひばりや森繁久彌といったビッグネームがそばにいるのが「普通」だった環境に、やっぱり驚きます。

はづき だから芸能界ってものを特別視していないんですね。ひばりさんみたいな人がお化粧もしないでうちに来て、「ごはんない? おかずはお漬物でいいわ」なんて言ってたり、高倉健さんにばったり会ったり。「うわあッ!」って芸能人に対して思わなくなってる。10歳の頃、初めて好きになった郷ひろみさんに会わせてもらえたときは心臓が飛び出しそうだったけれど、それぐらいですかねえ。

――あの……さっきからメイコさん、そしてひばりさんのお話のところ、本人の声色でやってくださるのがものすごく似てます(笑)。

はづき 母は誰かの話の部分はすべてその人の声色で話すので、そうやって喋るものだと思って育ったんです。母は「きょうひばりさんに会ったらさ、『ねえメイコ、あんたさあ……』って、そこに森繁のパパが来たのよ、『おおメイコじゃないか』って、さらに雪村いづみちゃんも来て『にぇ、メイコぉ?』って」、こんな感じ。私がやるとダメ出しもするし。

――モノマネのうまさって遺伝するんですね、はづきさんすごい(笑)。著名人が周囲にいっぱいいて、きっとみんなに可愛がられて育ったと思います。そういうのって、わがままな性格になる可能性もあると思うけど、はづきさんは一切そういう感じがない。

はづき もし私が美人に生まれてたら、すごくヤな女になってたと思います(笑)。そう考えると、小さいうちに「あなたはお姫さまでもないし、美人でもない」と母に言われてよかったと思って。

――本に書かれていますね。ごく小さい頃、お宅でパーティをするときに言われて、座ってないでお手伝いなさいと。

はづき 母は小さい頃、「あなたの顔は喜劇に向いてる」と言われて育ち、座右の銘も「人生は喜劇的でありたい」というような人でした。私にもなるべく早く、錯覚する前に伝えておかなきゃ、と思ったんじゃないでしょうか。

はづきさんがメイコさんにそう言われたのは、60年近く昔のこと。いまならルッキズムの観点もあってメイコさんも違った考え方をしたかもしれない。当時は容貌の話をとにかく今とはまったく違う感覚でしていた時代だった。このあたりはそういうことも含みつつ、読んでほしい。

はづき そう、本当に感覚って変わりますね。うちの親はすごく家族を表に出したがった。

――あの頃、有名人の子どもが週刊誌にもテレビにもよく出ていましたね。私も神津ファミリーが歌を披露してた番組、覚えてます

はづき 今は芸能人の子どもの顔にモザイクをかける時代だから隔世の感ですね。私、知らない人から「あなたの小さい頃はこうだったわね」「生まれたときこんなことがあったんでしょう」と言われることがよくあって、私の知らない私のことを知ってる人がたくさんいて、いつしか慣れてしまった。「そんな生活イヤ」とも次第に思わなくなっていったんです。

2025.05.11(日)
文=白央篤司
撮影=佐藤 亘