『人間万事塞翁が馬』一喜一憂せずに感謝しながら

――退団されてからほぼ一年になりました。退団したときに、今の自分の姿は想像されていましたか?
まったく想像できなかったです(笑)。もっと想像してなくてはいけなかったんだろうなと思うのですが……。でも、今すごくありがたい時間を過ごさせていただいていると思います。
――それは“不安”みたいなものを抱えていらっしゃったということでしょうか? 例えば、退団の翌日はどんなお気持ちでしたか?
退団公演の千秋楽の翌日は、まわりの皆様からいただくものの大きさが本当にありがたくて……それを受けて、受け止めて、光合成ができるような感覚でした(笑)。ずっと抱きしめて消化していくような気持ちでしたね。
――以前、星風まどかさんにお話を伺ったときも、同じことをおっしゃっていました(笑)。
きっと似たような感覚だったんでしょうね。その日は不安とかそういった気持ちはまったくなくて、ひたすらに光合成してました(笑)。
――1年前のご自身に声をかけるとしたら、「心配しなくても大丈夫だよ」と言ってあげますか?
きっと、もう少しお尻を叩くと思います(笑)。在団しているときまで遡って、もっともっといろんなことを教えてあげたいです。今あなたが受け取っているものはどういうものかということ、どんな意味を持っているのかを伝えたいですね。
――やはり、時間が経ってからだからこそ、分かることもあると。
はい。今はまだ卒業してから1年くらいですが、これからまた時が過ぎていくうちに、同じように迷ったり考えたりすることがあると思うので、そのときに自分を振り返ったり、見つめ直したりするタイミングを逃さずに、日々を大切にしていきたいと思います。
――毎日お忙しいと思いますが、ご自身の中で決めていらっしゃるルーティンみたいなものはありますか?
私はルーティンをこなしたりすることに、あまりきちんとしていないほうかもしれません(笑)。毎日頑張っていたとしても、生きていくうえで自分を見失うことはたまにあるんじゃないかと思うんです。そうなったときに見失ったままいるんじゃなくて、自分自身の捜索願いをだすようにしています(笑)。
――捜索願いを出すんですね(笑)。
はい。もしかしたら、放浪の旅に出ている自分を許してあげることも必要なのかもしれませんよね。自分を見失っている原因がどこにあるのか、自分にあるのか、ちょっとした疲れなのか、外からの刺激なのか……。原因はその時々で違うと思うので、必要であれば放浪を許してあげて、よきタイミングで捜索願いを出して、自分を戻してあげるようにしています。
――最後に柚香さんの座右の銘を教えてください。
『人間万事塞翁が馬』。いいこともあれば、悪いこともある。一喜一憂せずに感謝しながら毎日を過ごしていきたいと思います。
柚香光(ゆずか・れい)
1992年3月5日生まれ、東京都出身。2009年、宝塚歌劇団に95期生として入団。2014年に『ラスト・タイクーン』で新人公演初主演。2018年の『ポーの一族』より花組新2番手となり、2019年11月25日付で花組トップスターに就任。花組からは12年ぶりに誕生した生え抜きのトップスターとなった。自身初の東上主演作の再演となる『はいからさんが通る』でトップコンビ大劇場お披露目を果たす。『元禄バロックロック/The Fascination!』『TOP HAT』『うたかたの恋』『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』など、数々の話題作で主演を務める。2024年5月26日に惜しまれながら退団。お芝居としては退団後初の舞台が、今回出演する2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective 『紅鬼物語』。その後、7月には『BURN THE FLOOR(バーン・ザ・フロア)-COLOR MY HEART-』、12月~2026年2月には『十二国記 -月の影 影の海-』など大作への出演を控えている。
2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』

出演:
柚香 光
早乙女友貴 喜矢武 豊 一ノ瀬 颯 樋口日奈
粟根まこと 千葉哲也
鈴木拡樹
右近健一 河野まさと 村木よし子 インディ高橋
山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ
村木 仁 川原正嗣 武田浩二 他
【大阪公演】 SkyシアターMBS
2025年5月13日(火)~6月1日(日)
【東京公演】 シアターH
2025年6月24日(火)~7月17日(木)

2025.05.10(土)
文=前田美保
写真=佐藤 亘
スタイリスト=大園蓮珠