人はなぜパンダを愛でるのだろうか。
ここは韓国。2016年に中国からやって来た2頭のジャイアントパンダ、アイバオとローバオの間に待望の子が生まれた。「福宝(フーバオ)」と名付けられ、母譲りの愛くるしいルックスと、父に似た好奇心旺盛で活発な性格で、“プー姫”と呼ばれ国民的な人気を博す。
「彼女の可愛い姿に癒され、また、“フーバオのおじいちゃん”と親しまれたカン・チョルウォンさんら飼育員の物語を知るほどに興味が湧いてきて、撮影に参加したのです」
シム・ヒョンジュン監督のドキュメンタリー『私の親愛なるフーバオ』は韓国で初めて自然繁殖で生まれたジャイアントパンダと飼育員の3カ月の出来事を映す。

「ありのままの自然な姿をなんでもカメラに収めようと思いました。見知らぬ機材や私たちが、パンダの日課を邪魔しないよう、私が介入する部分も最小限に抑えて。細心の注意を払って撮影しました」
もっとも彼女はひもすがら寝て、食べて、座っている。カンさんたちは、食事を出し、寝床の掃除をする。時には彼女が小さい頃に遊んだハンモックを作ったり、大好きな菜の花畑を手入れしたり……。それは動物と飼育員のルーティン、何気ない日常。だが、そのひとつひとつが愛おしく、貴い記憶になっていく。
それは――生まれた時から別れが決まっているから。4歳になれば、フーバオは中国に帰らなければならない。検疫のため隔離された檻の中で、彼女はでんぐり返しを繰り返す。一見微笑ましいが、彼女は苛立っている。じっと見つめるしかないカンさん。
「そこにシナリオはありません。フーバオとカンさんの心の交流を撮りたかった」

本作の製作には、資金集めのために開かれた企画展でのグッズ販売で得た収益金が使われた。
「これがうまくいったのは、フーバオへの親愛、感謝、惜別、様々な思いが集まったからだと思います。彼女にどれだけの人が癒されたか。なかにはうつ病が治ったという方もいました。だから悲しくは撮りたくなかったんです。動物を相手にするからこそたくさんの感情を学びました。今後はそれを活かして、惹きこまれるストーリーを撮っていきたいですね。動物でも人でも、宇宙人でもね(笑)」

〈フーバオとの出会いは一生分の幸福をもたらしてくれました〉。カンさんはそう語る。人がパンダを愛でる理由、それは――。
Shim Hyeong-jun/写真家、ミュージックビデオ監督としてキャリアをスタートさせ、映画やテレビシリーズ作品、アートディレクションなど、幅広い分野で活躍している。主な映像作品に『The Butterfly Dream』(英題、22年)、『プレーヤー2 彼らの戦争』(24年)、『Moo No Plan』(英題、24年)などがある。
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映画『私の親愛なるフーバオ』
4月18日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋他全国ロードショー
監督:シム・ヒョンジュン、トーマス・コー
配給:ファインフィルムズ
https://fubao-movie.com/

2025.04.20(日)
文=「週刊文春」編集部