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深夜に交替で運転しながらひた走る

 交代で夜の高速道路を田舎に向けてひた走る2人。

 リズミカルに車を揺らすタイヤの音を聞き続けているうちに、きらびやかな都会の明かりはあっという間に姿を消し、日々の喧騒は後ろへ後ろへと引き離れていきました。

 高速道路を降りると、2人の目には薄暗い山や田園地帯の風景が広がったそうです。

「こっちまで来ると車もほとんどいないねぇ」

「金曜の夜に都心からここまで走り続けている人なんてどうかしているよね」

「自分でそれ言う?」

「はは、ごめんて。ねえ、運転変わらなくて大丈夫? 眠くて事故ったら終わりだからね」

「アドレナリン出ているから眠くはないんだけどさ、その……」

 ふいに、運転しているUさんが前を見たまま気まずそうに言いました。

「なに?」

「あのさ、ちょっとお手洗いに行きたいかも……」

「ええ!? 今さら言わないで案件だよ~。高速走っていたときならなんとかなったかもしれないけど、ここら辺トイレあるかなぁ」

 Fさんの懸念通り、車はすでに人気のない山道に差し掛かっており、手近な休憩場所はそう簡単に見つからなさそうな雰囲気でした。ましてや時間は深夜。最初は「まだ大丈夫だからとりあえず宿目指して進もう!」と冗談めかしていたUさんでしたが、その余裕は徐々に消え、今やその表情には焦りが浮かんでいました。

「あ! ほら、あそこ光っているよ! お店じゃない?」

2025.05.03(土)
文=むくろ幽介