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変わりゆく現代演劇シーンの現在地

 

──みなさんはほかの劇団の作品をチェックされる機会も多いと思うのですが、影響を受けた劇団もあったりするのでしょうか?

金子 ずっと好きなのは大人計画ですね。圧倒的に速度と密度がすごい。演劇を観るときって時間を気にしてしまうことも多いんですけど、情報量がすごいから一切時間を気にすることがなくて。ほかの劇団なら、去年浅草九劇で上演されたヒトハダの番外公演『杏仁豆腐のココロ』が面白かったですね。脚本ももちろんいいんですが、舞台上で実際にご飯をつくったり食べたりしているのがよかったというか、強度を感じさせられました。

玉田 僕の場合はナイロン100℃ですね。笑いの要素と人間ドラマの要素のバランス感覚がすごく気持ちいいし、リズム感もすごく面白い。とくに『噂の男』という作品は芸人さんの舞台裏を描いた作品なんですが、芸人さんたちが主人公だからツッコミとかも自然でいいんです。最近観た作品だと、ウンゲツィーファはずっと面白いですね。毎回新作を観れているわけではないんですが、(ウンゲツィーファの主宰を務める)本橋(龍)さんの感情と作劇がめちゃくちゃ密着している感じがして。自分にはない要素なので、すごく面白いです。

石黒 私も大人計画さんは本当に好きですね。あとは自分が演劇を始めたきっかけが劇集団「跛行舎」を主催されている方のワークショップだったんですが、その影響はいまでも受けています。その劇団は全員が面白いと思える作品ができるまで絶対に新作公演を行わないんですけど、そのストイックさがすごいなと。あとは城山羊の会も、大きな声を出したり派手な演出があったりするわけじゃないのに、お客さんの集中力が途切れないような作品をつくっていて、本当に素晴らしいなと思っています。

──いまも多くの劇団が面白い作品をつくっている一方で、こまばアゴラ劇場が閉館するなど、東京の演劇シーンには変化も起きていますよね。

金子 青年団の影響は大きいなと思います。ある意味青年団が王道として機能していたけれど、いざなくなると野良の人が出てくるしかなくなってくる。他方で名古屋から「優しい劇団」という若い劇団が1日だけ稽古して無料カンパ公演を野外で行うような活動を展開しているなど、オルタナティブな動きも活発になっていくような気もしています。

玉田 僕が青年団に入ったときは、岩井秀人さんや松井周さん、柴幸男さんなど、少し上の世代の方々が注目されていて、なんとなくメインストリームっぽいものがつくられてたんですよね。だからぼく自身も頑張ろうと思えていたけれど、いまは当時ほどわかりやすい流れがないかもしれないですね。みんなが同じ作品を観ているような状況が生まれづらくなり、「共通言語」が失われていくと、個々の劇団がそれぞれ頑張っていかなければいけなくなる。演劇を取り巻く状況はこれから変わっていくのかもしれません。

玉田真也(たまだ・しんや)

1986年、石川県生まれ。劇団「玉田企画」主宰。演劇のみならず映像作品も手がけ、2019年には『あの日々の話』で初監督を務める。2020年、テレビドラマ『JOKER×FACE』(フジテレビ)の脚本で第8回市川森一脚本賞受賞。本公演『地図にない』は玉田企画として2年半ぶりの新作。待機作として、監督を務めた映画『夏の砂の上』が2025年7月4日全国公開予定。

石黒麻衣(いしぐろ・まい)

茨城県生まれ。独自の会話における間と身体性によって醸し出される緊張感を特徴とする“劇団普通”を主宰。俳優業やドラマの脚本など、活動の幅を広げている。4月25日に初日を迎える、惚てってるズ 第二回公演『惚て並み拝見』にも作演出として参加。5月30日(金)~6月8日(日)に劇団普通の本公演『秘密』を予定している。

金子鈴幸(かねこ・すずゆき)

1992年、東京都生まれ。2016年コンプソンズを旗揚げし作演出を務める。2024年『愛について語るときは静かにしてくれ』が第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。舞台のみならず映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』、ドラマ『ちはやふる-めぐり-』などの脚本も担当、俳優としても出演が続く。7月に新作公演を予定している。

玉田企画
『地図にない』

配信日時:4月9日(水)21:00~4月16日(水)23:59
料金:2,500円
https://l-tike.zaiko.io/e/tamadakikaku2025

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2025.04.10(木)
文=石神俊大
写真=深野未季