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本物のバンドマンになれたかも(笑)

――ギターと歌についても教えてください。完全な初心者からスタートだったんですか?

 初心者も初心者(笑)。ギターなんて一度も触ったことがないので、何をしていいかすらも分からず。歌も普段カラオケで歌ったりしたことはありましたが、ルカが歌うようなロックテイストの曲は、まるっきり初めてだったんです。

 撮影前の準備期間もそんなになくて、ギターも1ヶ月ぐらいしか練習できなくて。演奏する楽曲も、皆さんが時間をかけてじっくり作ってくださったからこそ、本当にギリギリに上がってきて。逆に言えば、時間が限られていたから、すごく集中してがむしゃらにやれたのかなって思います。

 練習ではスタジオに入ったり、本当のバンドマンになったみたいでテンション上がっちゃいました! バンド用語も使っちゃったりして(笑)。ギターは、劇中バンドの「PEAT MOTH(ピートモス)」の儀間陽柄さん(※ジャガー・モリィ役)が、直接指導してくれました。それでも私はなんせコードが読めないし、言葉で教えてもらってもわからないので、コードは写真を撮って全部指の位置で覚えました。撮影して、家に帰って自主練する、その繰り返しで。とにかく自主練! と思って、寝ずにギターを触って歌って、と本当に猛練習の日々でした。

――その時間が、結果、ルカの役にめちゃくちゃ生きてそうですね。

 そうです、そうなんです! 本当にその撮影前の準備期間があったからこそ、「ルカも普段こんな気持ちなんだろうな」とシンクロできたというか。曲が生まれてこない気持ちとか、ギターや音楽と向き合っている時間がルカそのものなんだな、と感じることができました。

――ライブハウスのパフォーマンスは圧巻でした。アングラっぽい雰囲気も似合っていましたし、いざステージに立つとルカになりきれるものなんですか?

 わあ、ありがとうございます! 儀間さんのバンドのライブを見に行ったり、いろいろなロックバンドのMVを見て体に馴染ませていきました。今回、スタッフさんの中にもバンド好きな人が多かったので、みんなの意見も参考にして。

 一曲目の『脳内ノイズ』をライブで歌うときのルカは、どういう感じがいいかとか、細かい仕草に至るまで1個1個みんなで話し合いました。スタッフ含め、ルカを創り上げるために試行錯誤を重ねましたね。

――準備期間から撮影まで、本物のバンドマンになりきっていたからできたということですね。

 PEAT MOTHの撮影シーンの空気感も、めっちゃ普段通りなんですよ(笑)。バンドのメンバーたちがしゃべっているセリフも、彼らの普段の出来事を話しただけというか。監督が「最近面白いことありました?」、「バイト時代ってどういう感じでした?」とか実際に質問して、その答えをそのまま脚本にしているので、自然に感じるんだと思います。

―― 一方、ルカが「謎のシンガー『A、または人間、』」になってからは、いわゆるアイドル寄りの楽曲や服装になりました。そのあたりはいかがでしたか?

 どちらかというと、Aの方が普段の自分と重なるので、正直やりやすかったです。でもルカからしたら、やりたくないこと。Aが見せる笑顔だって“本当は違う”風にしなきゃいけないので、難しいなあと思いながらやっていました。

 撮影に入る前、しーちゃん(久保史緒里)の乃木坂46のライブを見に行ったんですが、心から感動しました。この日のために、何万人のファンの人たちを楽しませてくれるために、毎日一生懸命努力を続けてはじめて、みんなのオアシスみたいな存在になれるんだなって思いました。その時、かっこいいと思うのと同時に、すごく遠い存在にも感じたんですね。「ルカの気持ちってこういうことなのかな」と考える糸口にもなったし、あの経験もすごく大きかったです。

2025.03.27(木)
文=赤山恭子
写真=杉山秀樹
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