この記事の連載
上坂あゆ美×麻布競馬場 対談【前篇】
上坂あゆ美×麻布競馬場 対談【後篇】
めちゃめちゃドSな本

――アザケイさんから上坂さんのエッセイ集『ちきゅほし』が「滅茶苦茶面白かった」というご感想をいただきましたが、どんなふうに読んでくださったのか、具体的にお聞きしてもいいですか?
アザケイ まず、歌人の方って目が良くて、世界の見方が面白い。だからエッセイを書いたら当然面白くなるとは思うんです。ただ、1冊の本に短歌とエッセイが入っている構成だと知った時に、一体どういう形になるんだろう?と最初は予想がつかなかった。読んでみたら、これは歌集でもないしエッセイ集でもない、新しいバランスの読み物だなと。
上坂 へえ~嬉しい!

アザケイ 短歌って、字数制限があって伝えられる情報量が少ないからこそ世界が広がる部分があると思うんですよ。余白があって、解釈の余地があるから、いろんな読み方ができる。ある意味、小説の1ページより短歌の方が情報量としては多いかもしれない。そんな中で、この本においては短歌とエッセイ、それぞれの持っている情報の繋げ方が読者に委ねられていると思ったんです。エッセイを読んで、その後にある短歌を読んで、それらを繋げても、繋げなくてもいい。「こんなにも自由に想像していい本があるのか」と驚きました。
エッセイだけなら誰が読んでもわりと同じような読み方ができるけれど、単なるタイトルでもサマリーでもなさそうな短歌が添えられていることによって、世界がぐっと広がる。だから、簡単には読ませてくれない。簡単には要約できない。だから何度も読まなくちゃならないし、読むたびに読み方が変わるから、読み物として新しさがある。「ずるいくらいの手が出たな」と、小説を書いている人間としては思っていました。
上坂 えー! すげー!(笑)
アザケイ もっと簡単に「歌人が書いたエッセイ集」にすることもできたはずだから、歯向かってんなーって思った。調和に対して中指を立ててる感じが良かったです。

上坂 どうしてこの構成にしたかについてはうまく言葉にできなかった部分もあるんですけど、私がやりたかったことを最大限格好良く言うと、今言ってくださったことになるのかもしれないですね(笑)
アザケイ 読み方を定めていなくて、俺らが解釈して情報を繋げていかなきゃいけないから、めちゃめちゃドSな本だなと。追っても追っても逃げていくような自由さがすごく面白かったです。
上坂 ありがとうございます。
2025.03.28(金)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘