見覚えのあるお姐さんが…
そのお姐さんは前述の「ローズハウス」で働いていた榎本さんだった。
確認すると「そうなのよ。もう1人もまた働いているのよ」と笑顔で告白してくれた(嬉しいニュース2つ目)。私は去年、榎本さんに声をかけていたので覚えてくれていたという。
すぐに登場した「春菊天そば、玉子入り」のつゆをひとくち。

鰹節を中心にした出汁が十分に利いたうまいつゆである。色はむらさきのきれいなタイプ。「ローズハウス」の味に近い。そして、この春菊天が抜群にうまい。薄いころもでパリサクっと揚がっている。緑色もとてもきれいだ。そばは大手製麺所「むらめん」の茹で麺を使用している。
川口の野菜を使いたい
ちょうと食べ終わる頃、店主の渡邊洋介さんが笑顔で店に戻ってきて出迎えてくれた。店は3名の女性従業員と渡邊さんの4人で切り盛りしているようだ。
食べながら、渡邊さんに「枇栾」の開業の経緯を聞いてみたのだがこれがとてもいい話だった。
渡邊さんは47歳。もともと川口駅周辺で海鮮居酒屋、串揚げ屋、仕出し弁当の提供などの仕事をしてきた株式会社バードハウスの代表取締役である。「ローズハウス」のオーナーの方とは以前からの知り合いでもあったという。尊敬できる立派な方だったそうだ。ところが、そのオーナーが急逝し、閉店ということになってしまう。そんな中、川口市からこのスペースでの出店希望者の公募があり、参加することにした。
「自分は前からローズハウスにはよく食べに来ていて、ここのアットホームな雰囲気が好きだったんです。そういう思いから挑戦してみようということになったのです」と渡邊さんは熱く語る。

そして営業計画の資料を全力で作って、魂のプレゼンを敢行。見事に開業するチャンスを得た。その計画の中には、次のようなアイデアが盛り込まれていた。
「川口産の野菜を使うことにしたんです。川口市の大きな農家さんに相談して、ネットワークを作ってもらい、旬の野菜を直接提供してもらえるように依頼しています。春菊はそんな中から採用された野菜です」と渡邊さん(嬉しいニュース3つ目)。すごくいいアイデアである。

「さらに今までのローズハウスの味を大切にすることも条件に入れました。偶然にも前の従業員とコンタクトがとれて、また働いてもらうことにしたんです」
2025.03.22(土)
文=坂崎仁紀