◆徳島へUターンして感じた、幸せな暮らし

 徳島・松茂町出身の裕樹さんは、バックパッカー旅から帰国後、たまたま雑誌で読んだバリスタの世界に憧れ、20代前半のときに大阪のカフェで働き始めた。「最初はコーヒーすら飲めなかったのに、ラテアートがカッコよく見えたんです」と、裕樹さんは笑う。仲間と切磋琢磨しながら腕を磨き、バリスタの大会にもチャレンジした。

 その後、神戸の生豆卸・マツモトコーヒーを経て、焙煎機メーカー・富士珈機に転職し大阪や東京で働いた。コーヒー業界で長年にわたってさまざまな職種に身を置き、「経験や人とのつながりが今の仕事にすごく生きています」と裕樹さん。

 夫婦の出会いは大阪勤務時代。写真専門学校に通っていた徳島・三好市出身の有美さんと偶然出会い、同郷ということもあって意気投合。それから結婚・出産を経て、子育ては田舎でしたいと2020年に徳島へUターンした。

 裕樹さんは当初、地域おこし協力隊として働きながら、店名の由来にもなった阿南市の加茂谷でコーヒー店を夫婦でスタート。その後、現在の築100年の古民家を見つけ、協力隊の任期を終えた2023年に移転した。

 「コーヒーの世界に長くいるので、甘くないとはわかりつつ、いつかは自分の店をやりたいと思って、東京にいる頃から創業準備をしてきました。ビジネスをするわけなので人口が多い県外のエリアを見たこともありましたが、心にピンと来なかった。やっぱり故郷の徳島でやりたいなと思ったんです」と、裕樹さんは語る。

 リニューアルから1年半ほど、コーヒーの味が評判を呼び地域に少しずつ浸透してきていて、一緒に働く新しい仲間も加わった。裕樹さんは手ごたえを感じ、「身の丈にあったかたちで少しずつ成長していきたいです」とほほ笑んで、こう続ける。

「クオリティーで勝負して、コーヒーだったらあそこに行けば間違いないよねって思ってもらえる店にしていきたいです。コーヒーを通じていろんな縁をいただいたので、おいしいコーヒーを届けながら今度は僕らがいろんな縁をつなげたらいいな、と」

 現在は、小学生の息子ふたりと4人暮らし。「一度離れてわかった徳島のよさがたくさんあるんです」と岡﨑さん夫婦は口をそろえ、故郷の自然や食、人のつながりの豊かさをかみしめながら毎日を送っている。「帰ってきてよかったです」との有美さんの言葉に、「うん」と裕樹さんがにこやかにうなずいていた。

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2025.03.15(土)
文・写真=一ノ瀬伸