兵庫県姫路市の名物「アーモンドトースト」をご存知でしょうか? こんがり焼いた食パンに、風味豊かなアーモンドバターをたっぷり塗り、砕いたアーモンドやスライスをあしらって仕上げた一品。甘さと香ばしさが絶妙なマッチした味わいが特徴です。

 喫茶店を中心に地元で長年親しまれてきたアーモンドトーストは、お店ごとに異なる個性が光ります。今回は姫路駅から徒歩10分、みゆき通り商店街に半世紀にわたってお店を構える「はまもとコーヒー」を訪れました。


アーモンドをふんだんに使った香ばしいおいしさ。昔から変わらないこだわりの味

 はまもとコーヒーは、1975年にオープン。店頭には珈琲豆などが並び、珈琲専門店ならではの落ち着いた雰囲気が心地いい。店の奥にはサイフォン式抽出器が並ぶカウンターがあり、2代目マスターの濵本卓弥さんがやわらかい笑顔で歓迎してくれます。

 お客さんで賑わう店内で、熟練のスタッフが手際よく連携してオーダーを通します。炎を当てられてコポコポと小さく音を立てるサイフォン抽出器。

 蒸気が上がりお湯が吸い上げられていく様子を真剣な眼差しで見つめるマスターの濱本さん。見事な所作で鮮やかにコーヒーが淹れられていきます。

 はまもとコーヒーを訪れたら、ぜひ味わいたいのが「アーモンドトースト」。

 姫路の喫茶店を中心にモーニングや軽食で親しまれるメニューですが、お店ごとに製法や使用する材料が少しずつ異なります。こちらでは、砂糖を加えたマーガリンにアーモンドプードルとアーモンドダイスをふんだんに練り込んだ“特製アーモンドバター”をパンに塗り、仕上げにスライスしたアーモンドを全体に散らしてカリッと焼き上げ。

 ほおばるととっても香ばしく、幸せな甘さが口いっぱいに広がります。ふんわりと分厚いパンにアーモンドスライスの食感が重なり、その絶妙なバランスも魅力です。

 はまもとコーヒーではオープンしてしばらく経った1980年から1990年ごろの間にアーモンドトーストの販売をスタートしたのだそう。姫路市内で広まったのは、珈琲の製造・販売を行う「成田珈琲」の営業マンが各店に教えたことがきっかけになっていると言われています。その後、現在に至るまでお店ごとに独自の進化を遂げていったようです。

 はまもとコーヒーのアーモンドトーストレシピは昔からほとんど変わっておらず、たっぷり使ったアーモンドが楽しめるのが大きな魅力。また、アーモンドスライスを使っているのもこだわりポイントで、コストはかかってもしっかりとした素材を使いたいという思いが込められています。

 トーストする前にアーモンドバターやスライスを乗せるのもはまもとコーヒーならでは。素材が良いからこそ焼くことで香ばしい風味がより一層出るのだとマスターの濱本さんは胸を張ります。また、アーモンドバターとパンの相性も考えられていて、焼き上がったパンをすぐに冷凍することで水分を閉じ込めてモチモチの食感を生み出しているそうです。

 特製アーモンドバターは保存料を一切使用していないため、鮮度も重要。細部にまで気を配って生み出される、まさにお店でしか味わえない美味しさなのです。

2025.02.16(日)
文=狸山みほたん
写真=釜谷洋史