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幸せのために手放したもの

――では次。「執着や期待を手放せば幸せになれると聞きますが、岡村ちゃんが幸せのために手放したものはありますか?」

岡村 煩悩だらけになってしまうと生きるのに四苦八苦してしまうわけで、そういうものをすべて捨て去ることが平穏で幸せな人生につながる、というのは仏教の教えだったような気がするんですが。幸せのために手放したもの……難しいなあ。なんだろうなあ。自分じゃわからないんですが、なんかあるでしょうね、きっと。

――以前、岡村さんは「若い頃は結構虚栄心があったけど、いまはもうなくなった」とおっしゃっていましたよね。

岡村 虚栄心、ないような気がするなー、いまは。そうですね、虚栄心を捨てたのかもしれませんよね。若い頃はありました。

――裸に革ジャンの頃ですか(笑)。

岡村 だったかもしれません。いい車に乗りたいとか、ブランドものの服を着たいとか、世田谷区全体ぐらいの広さの家に住みたいとか(笑)。でも、それも結局、共有できたり自慢できないと侘しいだけじゃない。世田谷区全体に住もうが、ブランドものを着ようが、素晴らしい車に乗ってようが虚しいだけ。だからそういった虚栄心は、だんだんだんだん削ぎ落とされたような感覚はありますけどね。

「性善説」への複雑な思い

――次は結構深い質問なんですが。「対談の中で『性善説って信じますか』という質問を岡村さんは何度かされていたと思いますが、岡村さん自身は性善説についてどのようにお考えですか? これまでいろんな方に質問されて、なるほどと思ったことがありますか?」

岡村 これはね、僕はよくいろんな人に聞くんです。「週刊文春」の阿川佐和子さんとの対談でも阿川さんに聞いたと思うんですが。昨今、いろいろな事件があるじゃないですか。例えば、オレオレ詐欺とか。おじいさんやおばあさんが一生懸命働いて貯めたお金を狙うわけでしょ。そういう方を騙してお金を奪おうという発想自体が酷いし、人間はそんな考え方をしてしまうものなんだと。そういうときに、性善説を疑います。

 ただ、環境によって人は変わるじゃないですか。昔、アンデス山脈に飛行機が不時着したエピソードで、そういうことがあったけれど、人間って極限状態に追い込まれるとモラルも変わってくる。どんな聖人君子であろうとも。でもだからといって、人間は生まれつき邪悪だとも思わない。性善説を信じないとやっていられないところもあると思いますけどね。

大人になってからの親友・斉藤和義

――では、最後の質問を。斉藤和義さんに関する質問です。今回、本の中でも、斉藤和義さんと対談されましたが、岡村さんにとって吉川晃司さんは若い頃の親友で、斉藤和義さんは大人になってからの親友なんだなと、横で見ている私たちにもよくわかったんですが、読者の方々にもそれは伝わっていて。こんな質問がきたんです。「和義さんと出会い、親友になって、岡村ちゃんの幸福度は増しましたか?」

岡村 和義さんは大事な友だちです。心を許せる大事な存在。

――今年は、斉藤さんと「岡村和義」というユニットを組んで活動しましたけれど、それによって岡村さん自身の変化はありましたか?

岡村 和義さんと一緒にやることで自分の違う面や別の面白さが引き出されたようには思います。なんだろう、自分がメインでガッツリやってること以外の部分でいろんな人を楽しませることができたというか。それはとても自分自身にとって豊かな経験になったと思うし、とってもラッキーだなとも思っています。幸福度がアップしたかといわれれば、そうかもしれませんね。

――では最後に。私からの質問です。岡村さんにとっての幸福とは?

岡村 例えば、大きな本屋さんに来るとするじゃない。ここはアート系の本や趣味のいい本がセレクトされているからそういう本屋さんではないけれど、1階から6階まで本屋さん、みたいな大きな書店だと、1階にはだいたいハウトゥーものの本ばかり置いてあって。どうすれば豊かな人生を送れるのか、どうすればお金が貯まるのか、どうすれば無駄を省けるのか、そういった人生メリット系がワーッと並んでる。

 でもね、いくらそういう本を読んでも、すべては健康あってのことだと思うんです。お金を楽しむことも、食事を楽しむことも、人生を楽しむことも、まず健康でなくては享受できない。そして、心身ともに本当に健康であるならば、ほんのささやかなことに幸福を感じられるようになるはず。ハウトゥーもメリットもいらなくなると思うんです。焼き魚がおいしい、夕焼けがきれい、猫がかわいい。それだけで十分。だから、僕の結論としては、健康であること。それが幸福への道だなって。

岡村靖幸(おかむら・やすゆき)

1965年兵庫県生まれ。音楽家。

幸福への道

定価 2475円(税込)
文藝春秋
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2024.12.27(金)
文=辛島いづみ
写真=佐藤 亘