現在、そう思わざるを得ない環境に置かれているのかもしれないが、配偶者や子供が読めば傷つく場合もあるだろう。だからこそ直接言わずに、「ごめんの町」へ送るのか。
「あなたを選んでよかった」57年前の愛のエピソード
逆に、「あなたを選んでよかった」というハガキも届く。
<妻よ、五十七年前、お前が二十歳のとき、入院した病院で看護師していたお前に初めて会って、一目惚れしてラブレター出して、「うれしい!」と返事くれて、それがおれたちの長い愛の歴史の始まりになったんだよね?
実はあのとき、おれはお前と同室だったN子さんへ、お前の名前とまちがってあの手紙を出したんだ。今まで黙っててごめん! けどな、すぐにまちがえてよかったと思い、今でも人生最高のヒットと嬉んでるよ。夫>(第14回優秀賞)
内容からすると、応募時に妻は77歳の計算になる。夫妻とも元気であるならば、直接伝えてほしい「ごめんなさい」だ。
ハガキから透けて見える多様な夫婦関係
<付き合って8年、なかなかプロポーズをしてくれないあなたに、しびれをきらし、わざとお見合いをした私。焦ったあなたは必死で阻止してくれたよね。
そしてやっと念願のプロポーズ!
あれから30年、今は、あったかい家庭の中で、孫もできて、毎日とっても幸福です。でも、あのときは――
あなたにも、お見合い相手にも悪いことをしてしまったね。今まで言えなかったけど、本当に“ごめんなさい”幸福だから許してね!>(第17回JRごめん駅長賞)
このハガキも老いてなお夫のことを思い続けている人から届いた。
不倫に関しては、夫の浮気を防ぐために「他の人にモテなそうな」「ワンサイズ小さい」スケスケのパンツをはかせている妻から「ごめんなさい」と謝るハガキも届いた(第18回南国市商工会会長賞)。パンツ姿でムキムキの尻を楽しそうに振る夫の絵が描かれていたが、パンツはスケスケなうえ、ネコのような動物のデザインもされていた。
ハガキから透けて見える夫婦関係は多様だ。不倫をして自責の念にかられる人あり。愛情深く添い遂げる人あり。両極の立場から「ごめんなさい」が届くのは興味深い。
目立つ面白いおじいちゃんネタ
家族間の出来事はかなり寄せられる。
「比較的多いのは、不治の病という診断を、どうしても本人に告げられなかったという内容です。『高齢だったので、ショックを受けるより知らない方がいいと思った。でも本当に言わなくてよかったのだろうか』などと後悔の言葉が書かれています。残された時間でやりたいことが出来なかったのではないか、最期の過ごし方はあれでよかったのかと、悩む人が多いのでしょう。これは今でも寄せられます」と徳久さんは言う。
母親の話が多いが、おじいちゃんネタも目立つ。「家族の中では意外に愛されキャラなんじゃないですか。存在自体がすっトボケた感じだし、面白いので」と徳久さんは笑う。
<おじいちゃんへ
小さい時、おじいちゃんの頭に変な紙を張りつけて
ごめん。
気づかなかった
おじいちゃん
散歩に行って
女の人に笑われて
しまったみたいで
心の底から
ごめんなさい。>(第17回海洋堂高知賞)
地元の南国市内にある高校の生徒からのハガキだ。口ヒゲを生やしたおじいちゃんが、ツルツル頭のてっぺんに細長い白い紙をアンテナのようにはりつけられている。そばには孫娘が描かれていた。
2024.12.13(金)
文=葉上太郎