吉川 そうですね。まさに撮影前のスタッフルームは科学部のようになっていました。相当苦労したというのは、たぶん演者さんたちにも伝わって、成功したときにはみんな「オオーッ」って盛り上って(笑)。素に近い感じで喜んでいるようでした。

伊与原 第4話(「金の卵の衝突実験」)では、イッセー尾形さん演じる70代の長嶺のお芝居に圧倒されたんですが……。

 

想定を超える奇跡的な瞬間がいくつも生まれた

吉川 どこまで言っていいのか迷うところですが、イッセーさんはすごくサービス精神のある方で。テイク毎に微妙に芝居を変えてくださったり、撮影しながら何度も驚かされました(笑)。しかし、イッセーさんが最後まで予想しきれない存在としていてくれたことで現場にもよい緊張感が生まれたし、ドラマ的にもこちらの想定を超える奇跡的な瞬間がいくつも生まれたような気がします。

 第4話で長嶺が過去を回想する場面では、過去シーンの映像を入れることをチラリと考えなくはなかったんですよ。今回のドラマ『宙わたる教室』は、夜の教室で何かキラキラした青春が描かれるわけでもないし、生徒の数も少ないから、どうしても地味になるんじゃないかと不安があって、ついつい余計なことを入れたくなる衝動というか、誘惑に駆られることもあったんですけど、なるべく余計なものを入れてはいけない、と常に自分で自分に言い聞かせていました。

伊与原 あの長嶺が回想している場面は、イッセーさんの動きだけを漏らさずに見ていたい、って思わされました。本当によかったですよ。

吉川 長いシーンだったので一日かけて撮ったんですが、中盤辺りで妻の江美子(朝加真由美)のことを語りだすあたりから、イッセーさんが本当に長嶺さんでしかなくて、「これはいけるな!」と手応えを感じながら撮っていました。映像で見せるよりも、何か長嶺の言葉から、視聴者の皆さんの頭の中で再生されるような、何かが自然とあふれ出ていたんじゃないでしょうか。

2024.12.05(木)
文=伊与原新,澤井香織,吉川 久岳