治療の選択やスケジュールは医師と相談して進めるにしても、日常に起こる身の回りのこと、特に「仕事」に絡むことはきちんと整理しておかないと、いろんな人に迷惑をかけることになる。
いまの僕はこうして原稿を書ける体力があるが、いずれは自由に体を動かすことができなくなり、寝たきりに近い状況に陥るのだろう。そうなったとき、おひとりさまはどう対処すればいいのか。これからの自分にどんな症状が出て、どのように苦しみ、どうすればその苦しみを和らげられるのか、あるいはできないのかも知っておきたい。
また、自分が死んだ後のことも、事細かに指示しておく必要がある。財産や自宅(賃貸マンション)の後始末は家族がいれば任せられるが、独身者は自分である程度片づけてから、あるいは信頼できる人に依頼してから死ななければならない。
このように、現代では死んでいくにも何かと事前の手続きが必要で、おひとりさまはそれらをあらかじめ済ませてから人生を終えなければならない。「病気になった」「がんになった」と悲嘆に暮れている場合ではない。いろいろと忙しいのだ。
ただ、がんの闘病においては、おひとりさまならではのメリットもある。詳しくは本編で触れるが、病院選びや医師選びの対象範囲が広がる点は、“家族持ち”に比べて有利だ。また財産を残す必要が無ければ、人生の最終盤を経済的に余裕をもって過ごすことができるかもしれない。
そのなかでも最大のメリットは、死によって「最愛の人との別れ」を経験しないで済む──という点に尽きるだろう。これも本編で詳しく書くが、死がもたらす最大の悲劇はこの“別離”だ。しかし、おひとりさまは事前に最愛の人との別離を済ませているか、最愛の人を持たない人生を過ごしてきたかのいずれかだ。このことが、これから死にゆく者のストレスを軽減する作用は計り知れない。
人は家族や恋人を連れて死ぬことはできない。ならば、死ぬときはおひとりさまのほうが絶対に有利だ。一人で旅立つのは寂しいが、愛する人を悲しませずに済むと思えば我慢もできる。最愛の人と別れる辛さよりは、はるかにマシなのだ。
2024.12.06(金)