でも、過去の記事にウソはないので安心してほしい。単に僕が自分で書いた注意点を守らず、検査や治療から逃げ回っていたことがすべての原因なのだ。
「痛み」や「苦しみ」が好きな人はいないだろうが、僕はこうした「苦痛」に対して人一倍警戒心が強い。早い話が「こわがり」なのだ。しかも、嫌なことや面倒なことを簡単に後回しにする性格でもある。がんの転移を許した背景には、そんな僕の性格が少なからず関係しているようだ。
理由はどうあれ医療記事を書いている者ががんになり、それを転移させてしまったことは事実である。
しかし、僕の失敗は今後がんにかかる可能性を持つ、もしくは、現在がんを患っている多くの読者に役立つかもしれない。なので恥を承知の上で、僕の経験を記しておきたいと考えた。自分の失敗を公開することで、医療ジャーナリストとしての失敗を許してもらおうという魂胆なのだ。
「おひとりさま」の闘病は忙しい
超高齢社会の進展により、配偶者を失って一人で暮らす高齢者が増えている。熟年離婚も珍しいことではなくなり、そもそも結婚をせず、生涯独身という選択をする人も少なくない。
じつは僕もそんな「おひとりさま」の一人だ。
僕の場合、自分の意思で独身を続けているわけではない。二度も女房に逃げられた「バツ2」だ。僕のがんが見つかったのは二度目の離婚の後なので、独身になってから──ということになる。
自分ががんになり病院通いをするようになって気付いたことがある。僕がかかる泌尿器科は男性患者が多いのだが、待合室を見渡すと夫婦連れが多く目につく。患者である夫のほうは待合室のイスに座って何するでもなく過ごしているのに対して、妻のほうが、おそらく夫の病気に関する情報が載っているのであろう本や雑誌を熱心に読み込んでいる。
夫婦でいればそこに補完作用が働き、共に危機を乗り越えられるのかもしれないが、おひとりさまががんにかかると、すべてのことを自分で決断し、自分で処理していかなければならなくなる。「女房まかせ」ができない男の独り者ほど情けないものもない。
2024.12.06(金)