「分断しない」ストーリーに込められたもの
その後も、「鮎美のサポートで本当に助かってるよ」と無意識に「女は男を支えるもの」という凝り固まった価値観を押し付け、会社の飲みの席では「(付き合って)もう5年もたつし責任取らなきゃ」と発言して後輩たちに引かれる。読者によって「あるある」と思うか、自身の黒歴史を思い出してのたうち回るか、はたまた「これの何がいけないの?」となるかはわからないが、いずれにせよ無意識モラハラ男の形態模写――その解像度が抜群に高い。相手にあからさまに怒声を浴びせたり暴力に訴えるのではなく、形だけは労うポーズをしている点も絶妙だ。
しかし『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の真骨頂はここから。鮎美が去った理由がわからない勝男は、「昭和男子って感じ(笑)」という周囲のリアクションを受けて、ここで初めて自身と他者――ひいては世間のズレに気づくのだ。
いつからか、現代の時代性が「やり直しを認めない社会/時代」と評されるようになった。例えばSNS上で一度でも炎上したら袋叩きにあい、“魚拓=デジタルタトゥー”としてことあるごとに蒸し返される。実際、アウトな発言をする人物も多いし、多様性をテーマに変わっていこうとする時代にあって古い価値観が糾弾されるのは無理からぬことだが、自分の正義を妄信し、他者に厳しすぎる人々が増殖しているのもまた事実。融和ではなく排斥という前時代的な行為が繰り返されていると言えなくもない状況下で、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は勝男だけでなく様々な人々に相互理解の機会を提供する。
鮎美は「ハイスペックな男を捕まえるためには努力が必要」という生き方をしてきた人物。本屋で並ぶ雑誌に「昔はもっとモテだ男子ウケだ言ってなかった??」「『自分らしく』とかみんなそれがなんなのか知ってるの?」と困惑を隠せない。彼女もまた、勝男と同じで時代の変化に取り残されていたのだ。そんな鮎美はパワフルな美容師・渚と出会い、自分を解放していく。単に勝男を加害者・鮎美を被害者として描かない構成も絶妙で、お互いの周囲の人物に伝播していく。
勝男の同僚・白崎は「たぶん(勝男は)何言っても一生変わらないんだろうな~て思ってたんだけどさ それって俺の決めつけだったかも」と認識を改め、勝男の後輩・南川も頭ごなしに否定していた勝男の変化を目の当たりにし、打ち解けていく。そして物語は勝男の家族にまで広がり、封建的な父親に植え付けられた価値観や兄の苦悩といった勝男のルーツが紐解かれる。
ここでも「昭和脳」を切り捨てるのではなく、その奥に在るものを観ようとする姿勢が感じられ、分断の道を辿らない。そうしてしまったら「近頃の若いもんは」「男って」「女って」と決めつけて鋳型にはめる人々と同じだからだ。
2024.10.12(土)
文=SYO