この自伝的エッセイ、『愛という名の支配』は私の魂の記録です。私の女性学的研究のすべてはここが原点です。私は子どものころから母との関係に葛藤を抱え、「女らしくしろ」という抑圧に苦しみ、ずっと生きづらさを感じてきました。自分が何者か分からなくて、暗く長いトンネルのなかを歩いているような状態でした。その苦しみと向き合って客観的に分析しているうちに、私はこの苦しみが自分だけの問題ではなく、世界中の女性を苦しめている問題でもあることを確信しました。同時に、自分の進むべき道が見えてきました。すでに『愛という名の支配』を書く十年ほど前から、私は「『父の娘』と『母の娘』と」、「カルメンはなぜ殺されたか」など、女性学に関する論文を専門誌や論文集に発表していました(『もう、「女」はやってられない』に収録)。書くたびに新しい発見があり、私は自分を少しずつ解放していったのです。書く行為がいわば「自己セラピー」になっていました。
『愛という名の支配』は、そうした私の魂の軌跡を綴った集大成です。世間が評価しようがしまいが、自分にとってとても大切な一冊です。だから、それを読んで勇気づけられる人がいるのなら、最高にうれしい。
女性を苦しめてきた差別に少しずつ変化の芽が出始めつつある今、本書『わたしリセット』を出版することになりました。
この本では母との葛藤についてだけでなく、四十六歳で自己が解放されたあと、「わたし」を「リセット」して、どう生きてきたかも記しました。四十代までは法政大学の教養学部で教えていましたが、四十九歳のときに初めてテレビのバラエティ番組に出演し、六十歳のときに国会議員になり、六十五歳からシャンソンや書アートの活動もしています。こうして新しいことに次々と挑戦できているのも、自分を取り戻すことができたからです。四十六歳からの再出発ですから、ずいぶんと時間がかかりましたが、そのぶん、今は自分をめいっぱい出せています。
2024.10.05(土)