CREAがはじめてひとり温泉を特集して7年。当時は「女性がひとりで温泉なんて!」と驚きを持って受け止められたこのテーマも、いつしか珍しくない光景となりました。
好評発売中の「CREA」2024年秋号では、コロナ禍を経て、進化する“温泉地”を舞台に、めぐる旅を大特集しています。
CREA 2024年秋号
『楽しいひとり温泉。』
定価980円
心が動く瞬間を見つめ直す
●くろしお想[和歌山/白浜温泉]


三大随筆の一つ『徒然草』に、こんな一節がある。「花は盛りに、月は隈無きをのみ見る物かは。雨に向ひて月を恋ひ、垂れ籠めて春の行方知らぬも、なほ、あはれに情け深し」。
この「桜は満開、月は満月だけが価値のあるものだろうか、花や月に憧れる気持ちこそが趣深いのだ」という兼好法師の哲学を汲み取り、コンセプトにした宿が南紀白浜の丘の上にある。

古くからあった保養所を、地元の紀州材などをふんだんに使って再生。
地域に綿々と受け継がれてきた文化と、建物が刻んできた歴史が伝わってくる空間からは、有機的な営みが感じられるだろう。


エントランス、ロビー、客室、温泉。宿のどこにいても、心が満たされていくのだ。
大きな窓から見える海、山、そしてそこから差し込む光や影からは、兼好法師が説く、本質的な日常の美しさに触れられるはず。
2024.09.29(日)
文=高田真莉絵
写真=岡本佳樹
CREA 2024年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。