日本人キャラクターだけでなく、英語圏の視聴者に入り口を広げる工夫もある。アメリカで活躍する演技派俳優のコズモ・ジャーヴィス演じるイギリス人航海士の按針(アンジン)は原作通りに主要キャラクターに据え、彼の視点からも異文化を体験する物語として観進めることができる。
ヒットの理由2:日本文化を表面的に描くだけでは炎上対象に…“本物”へのこだわり
こうした正攻法を取るだけでヒットするわけではない厳しさもある。世界のドラマ市場は超競争過多の状況だ。差別化を図る上で、日本が舞台であることは好都合だったのかもしれない。畳のセットに着物の衣装、刀で切腹する場面など海外の視聴者に新鮮味を与える。ただし、表面的に描くだけでは今の時代、炎上対象になり得る。製作スタジオFXのジョン・ランドグラフ会長から直接聞いた話によれば、日本の歴史や文化をまとめたマニュアル本を事前に用意し、そのボリュームは900ページにも及んだというのだ。「“本物”へのこだわり」を表すように言っていた。
何より、主演の真田をプロデューサーとして迎え入れたことが日本の時代劇を正しく描こうとする意識の表れだ。クオリティを担保するために予算もかけている。「SHOGUN 将軍」に関して公表されている数字はないが、ハリウッドの配信ドラマは今、1話に数十億をかけるのが当たり前になっている。どれだけ凄いことかというと、1話だけでNHKの大河ドラマ1年分の予算に相当する規模になる。
要するに「SHOGUN 将軍」は、エンターテインメント業界の流れに乗り、真田という存在がいたことで今回のような評価に繋がったわけだが、日本人俳優が今回だけ注目される話として終わらない可能性もある。
渡辺謙、役所広司が苦労した時代との“最大の違い”
かつて松田優作がハリウッドで旋風を起こし、ハリウッドに早くから進出した真田や渡辺謙、役所広司が苦労した時代を経て、「動画配信時代」を迎えた。以前は海外進出への道は映画に偏っていたが、今は全世界に配信できるビジネスモデルを築いた配信ドラマもある。
2024.09.21(土)
文=長谷川 朋子