暗算の本がブームだ。電卓やスマホがあれば日常生活で計算に不自由することはない。ましてやAIの普及で、単純な計算作業は人の手を離れつつある。しかし、複雑な思考のベースとして、自分の頭で計算できることの重要性は、むしろ高まっているのかもしれない。本書は類書を横目ににらみつつ、より根源的な部分まで遡って教えている点が特色のベストセラーだ。

「類書は複雑な掛け算の暗算から始まっていることが多いんです。でも、もっと手前の、桁数の多い足し算にも暗算の需要はあると考えて企画しました」(担当編集者の大倉祥さん)

 著者は京都大学大学院修士課程修了の人気勉強系YouTuber。学部では電気電子工学を学び、大学院では流体力学を研究。キャリアだけを見れば理系のエリートだ。しかし勉強に苦労していた時期もあったそうで、できない人も楽しく勉強できるように助けたい気持ちは人一倍強いという。速く正確に暗算するためのワザを「わけわけ算」「にじにじ算」などと名付けており、ネーミングセンスにも著者の持ち味がよく現れている。

「小学生はもちろん、高齢者の方にも脳トレ需要でよく手にとっていただけています。中学生から『自分は数学ができないと思っていたけど、算数でつまずいていたことに気づけた』という感想があったのも、うれしかったです」(大倉さん)

2023年12月発売。初版5500部。現在8刷6万1000部(電子含む)

小学校で習う計算が5秒で解ける 算数 ひみつの7つ道具 

定価 1,210円(税込)
かんき出版
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.09.20(金)
文=前田 久