伊太楼から伊太郎、そしてイタロへ
ところで、「伊太楼」なる響きを耳にして、昭和の音楽愛好家がまず想起するのは、橋幸夫のデビュー曲「潮来笠」に違いない。つまり、潮来の伊太郎。
![1960年にリリースされた「潮来笠」は、売上120万枚の大ヒットを記録。なお、最初にこの曲名を目にした橋は、「しおくるがさ」って何だろうと思ったそうである。確かに潮来(いたこ)はなかなかの難読地名である。筆者は子どもの頃、この歌の舞台は恐山だろうかと勘違いしていた。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/c/b/1280wm/img_cbbc7b1cc11535ff6062ebb6c62a04eb79502.jpg)
次いで、イタロディスコ。80年代のイタリアで生まれたユーロ感覚の濃い、すなわち水商売っ気が匂い立つダンスミュージックのジャンルである。その俗っぽさ、軽さ、いなたさゆえ、どうにも癖になってしまう魅力を有している。
![左:D.D.サウンドのアルバム『1-2-3-4 ギミー・サム・モア』。ラ・ビオンダという姓の兄弟によるプロジェクトである。表題曲は日本でもヒット。このアルバムにも収録された「カフェ」は、東京パフォーマンスドール時代の篠原涼子がカバーしていたりする。
右:マッチョのアルバム『アイム・ア・マン』は、とにかく何かに急き立てられるかのごとく全編がエモーショナルだ。表題曲は、スペンサー・デイヴィス・グループの名曲をイタロ色に染め上げた名カバー。ユニット名とジャケットから伝わってくる通り、「Y.M.C.A.」でお馴染みのヴィレッジ・ピープルにも通ずるセンスを感じる。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/c/a/1280wm/img_ca2026c41c7c176e5c235edde2d6858994237.jpg)
右:マッチョのアルバム『アイム・ア・マン』は、とにかく何かに急き立てられるかのごとく全編がエモーショナルだ。表題曲は、スペンサー・デイヴィス・グループの名曲をイタロ色に染め上げた名カバー。ユニット名とジャケットから伝わってくる通り、「Y.M.C.A.」でお馴染みのヴィレッジ・ピープルにも通ずるセンスを感じる。
ここでふと思う。伊太郎=イタロという地口に導かれる形で、橋幸夫は、「潮来笠」をイタロディスコ化する構想を一瞬でも抱くことはなかったのだろうかと。
70年代晩期のディスコブームは、我が国の歌謡界の大御所たちをミラーボールきらめくダンスフロアへと引っ張り出した。その最大の成功例が、三橋美智也である。代表曲「夕焼けとんび」「達者でナ」をディスコ化したシングル「Mitchie Fever」は、『サタデー・ナイト・フィーバー』のジョン・トラボルタを気取ったジャケットが素晴らしすぎる。
![三橋美智也「Mitchie Fever」。プロデュースを手がけたのは、テリーこと寺内タケシ。マルちゃん「激めん」のCMでは、この白いスーツ姿で「激れ! 激れ!」と叫んでいた。ミッチーは民謡三橋流の家元でもあり、細川たかしは、その弟子としては「三橋美智貴」を名乗っている。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1280wm/img_1abadc5a77b47293eda7b00ee20d95ef44104.jpg)
結論から言えば、橋幸夫が余計な色気を出してイタロそのものに触手を伸ばすことはなかった。しかしながら、ディスコサウンドは、別の形でちゃっかり採り入れている。それが、「股旅’78」。
![橋幸夫「股旅’78」。近田春夫は、このシングルのリリース当時、「POPEYE」の連載コラムにおいて、その衝撃がいかほどのものであったかを詳述している。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/a/1/1280wm/img_a1edc0d755111c84e98b3c29c0051e5633253.jpg)
江戸時代のいわゆる渡世人が現代の東京にタイムスリップするという奇想天外な設定は、ピンク・レディーの諸作において荒唐無稽なSF的物語をお茶の間に届けてきた阿久悠ならでは。
![CREA Traveller的観点からおすすめしたいピンク・レディーのアルバムが『ピンク・レディーの不思議な旅』。全曲の作詞を手がけた阿久悠の異能が大爆発している。ブラジル、フランス、アメリカ、エジプトなど、世界一周しながら恋をする女性の成長を描くコンセプトアルバムだ。ここに収録されたヴァージョンの「波乗りパイレーツ」は、ビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストンがプロデュースを行い、ブライアン・ウィルソンらがコーラスに名を連ねている。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/b/8/1280wm/img_b818e1d3ede76f016c6a69602acf301276242.jpg)
2024.09.19(木)
文・撮影=ヤング