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 フィンランド移住の夢を追う日々を描いた、書き下ろしコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』シリーズで大人気の週末北欧部chikaさん。フィンランド式スタイルや考え方を紹介した新刊『フィンランドくらしのレッスン』を上梓されました。

 2022年に寿司シェフとしてフィンランドへ単身移住した週末北欧部chikaさんへインタビュー。フィンランドでのリアルな暮らしについて、お話をお聞きしました。


日本にいたときは「今は仮暮らしだから」と

──まずは新刊でフィンランドでの暮らしを「レッスン」と表現された理由から教えてください。

 日本にいたときは、「いつかフィンランドに住む」という夢があったので、いつも「今は仮暮らしだから」と我慢していました。「仮暮らしだから大型家具は買わないようにしよう」とか、「仮暮らしだからペットは飼わない」「仮暮らしだから出会いは後回し」など、「仮暮らし」であることを理由に、いつも何かを我慢して生きてきたように思います。

 だから2022年に寿司職人として単身フィンランドに移住し、4カ月経ってようやく自分のアパートが借りられることになった時は、「これからは、我慢せずに生きられるんだ」とウキウキした気持ちでした。

 さっそく、大好きだったフィンランドの有名家具ブランド店へ大型家具を買いに出かけたのですが、そこでふと、「家具ってどうやって選ぶんだっけ」と、戸惑ってしまって……。それまで「仮暮らし」しかしてこなかったので、自分がどういう暮らしをしたいか、どんなふうに家具を選べばいいかが、まったくわからなくなっていたんですよね。

 移住から2年が経った最近になってようやく、まわりのフィンランド人の友達や同僚から暮らしの作り方や生き方を教わりながら、少しずつ自分らしい暮らしが作れるようになってきたので、「これは、自分のふり返りとしても描いてみよう」と思い、「くらしのレッスン」としてまとめました。

──「フィンランドへ移住したら求めていた暮らしができたというわけではなかった」と、ご著書でも描かれていますよね。

 そうなんです。移住する前は、フィンランドに移住さえすれば、これまで我慢していた大型家具も買いそろえて、自然と自分が憧れていた暮らしができると思っていました。でも、いざ家具を買おうとすると、ひとつひとつの家具選びや色使いも「これから一生使うものだから」と力みすぎて、選べなかったんです。

 アパートが決まった時に、勢いでベッドだけ買ってしまったんですけど、そのベッドを見ながら、「家具すら選べない“暮らし初心者”の自分をなんとかしなくてはいけない」と強く思いました。

 また、移住1年目に、思っていた以上に時間的にも精神的にも余裕がなかったというのも、理想と大きく違っていたことでした。寿司シェフとして働いていたレストランの仕事が忙しすぎて、この1年はそれまでの人生のなかで一番働いたというほど仕事ばかりしていたので、暮らし作りにかける余力がまったくなかったんです。それを何とかしたいという気持ちもありました。

2024.09.18(水)
文=相澤洋美