この記事の連載
- 梨さんインタビュー #1
- 梨さんインタビュー #2
ホラー界の凄腕たちが求めた「ホラー」ではない味わい
――「フェイクドキュメンタリーであること」を前面に打ち出したのにはどういう意図があるのでしょう。
梨 現実とフィクションの境目を狙うフェイクドキュメンタリーを描く際は、やっていいことといけないことの線引きに細心の注意を払うようにしています。今回の展示に関わる方全てに「既存の行方不明事件を想起させることは避けてください」と伝えました。こうした線引きの意味合いも込めて、フェイクドキュメンタリーだと表明している部分が大きいですね。
――大森さんや寺内さんもこうしたジャンルが得意ですが、何か共鳴する部分はありましたか。
梨 かねてより現実との境界を曖昧にするような仕掛けが好きだったので、その愛は共有できたと感じています。あと、大森さんのホラー以外のフェイクドキュメンタリーを作ってきた過去と、寺内監督のホラーの中に怖さ以外の味わいを模索されてきた過去が、今回の私の“SFをやりたい”という部分と上手くマッチしたのも良かったなと思いますね。
――ホラー界の凄腕たちが集まって「ホラー」ではない味わいを求めるというのも、おもしろい試みですね。
梨 もちろん肌触りとしての「ホラー感」は残していますが、最終的に伝えたいものは“ホラー的な手触りの中にある異なる味わいを再解釈であぶり出すこと”でした。実は既存の怪談なども核には“悲しみ”や“愛”といった怖さ以外の感情があることが多いです。
例えば怪談「番町皿屋敷」も、幽霊であるお菊さんの視点に立てば“死ねば消えてしまう思いを霊になって晴らせた復讐譚”であり、言ってみればセラピー話です。こうした“再解釈の視点”は、行方不明という題材をネガティブな目線以外からも捉えようという先述の話にも通じますね。
――最後に、来場者にメッセージがあればお聞かせください。
梨 今回の展示は異常現象としての行方不明をスリリングに描くと同時に、その世界の無情さも描いています。“行方不明が救いになる”と安易な礼賛はしたくなかった。フィクションを通して“現実を生きるというのもそこまで悪くないのかも”と思えるところまで作ったつもりなので、今回の展示を通して現実を生きる活力を持ち帰っていただければなによりです。
ホラー作家・梨×闇×大森時生による
「行方不明展」
2024年7月19日(金)〜開催決定
行方不明展」とは?
「行方不明」
どこへ行ったかわからないこと。行方知れず。
出かけたまま帰ってこず、行き先や居場所がわからない状態。
[類語] 失踪・失跡・蒸発・神隠し・家出・消息を絶つ
会場には、貼り紙、遺留品、都市伝説など、様々な行方不明にまつわる物品や情報を集め分類を分けて展示します。みなさんも「行方不明」の痕跡を辿り、理解を深めていただければと思います。
なお、本展で紹介した行方不明者を捜索する必要はありません。
※この展示はフィクションです。
タイトル:行方不明展
場所:福島ビル
住所:東京都 中央区 日本橋 室町1-5-3 三越前 福島ビル 1F
※東京メトロ「三越前駅」徒歩2分
開催時間:11:00〜20:00 ※最終入場は閉館30分前
※観覧の所要時間は約90分となります。
料金:2,200円(税込)
主催:株式会社闇・株式会社テレビ東京・株式会社ローソンエンタテインメント
WEBサイト:https://yukuefumei.com/
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2024.07.19(金)
文=むくろ幽介
写真=山元茂樹