数々の作品の世界をテノールの美しい歌声と演技で表現してきた田代万里生さんは、2024年2月にミュージカルデビューから15周年を迎えた。熟練したその表現力をますます発揮している田代さんが次に出演するのは、ブロードウェイ発のミュージカル『モダン・ミリー』。

 『モダン・ミリー』の原作は1967年に公開され、ジュリー・アンドリュースが主役を演じて好評を博したミュージカル映画。その約30年後に舞台化されてトニー賞作品賞などを受賞して大ヒットとなった話題作だ。ミュージカル俳優として歩んできた歩みや本作への意気込みなどを伺った。


ミュージカル俳優としての“入口”となったのは…

――ミュージカルへの初出演は『マルグリット』ですが、ミュージカルと出会ったことは、ご自身にとってどんな意味がありましたか?

 僕は“ミュージカル俳優”としてのデビューは遅かったので、“ミュージカル”自体に出会うのも遅かったんです。大学に入るまでは、オペラなどクラシック音楽にしか触れていなくて、大学に入ってから初めて『ジキル&ハイド』『ライオンキング』『オペラ座の怪人』などを観ました。でも、その頃のミュージカルへの印象は、PA(音響拡声装置)を使っていたので、映画を観ているような感覚でした。僕にとっての舞台とは“オペラ”だったので、“ミュージカル”を全く別の物として捉えていたんです。

 でも、『マルグリット』のオーディションのお話をいただいて、ロンドンのウエストエンドで上演されているのを観たときに、ガラッとその印象が変わりました。それはまさに2008年の世界初演だったんですが、『椿姫』を題材としていて、作曲がミシェル・ルグラン、演出はオペラも手がけているジョナサン・ケントという方々だったので、オペラチックなテイストのあるミュージカルでした。それがミュージカル俳優としての“入口”となったわけですが、その時は自分がミュージカルを演じていくなんて、少しも思っていませんでした。

 2作目で『ブラッド・ブラザーズ』のお話をいただいて、ひとつひとつの舞台をやっていくうちにミュージカル俳優と呼ばれるようになり、いつの間にか自分にとって主軸になっていきました。今となっては、出合うのは遅かったけれど、自分がやりたかったのはミュージカルだったんだと、思えるようになりました。

――これを経験したからこそ今の自分があると思える作品はありますか?

 グランドミュージカルだと『エリザベート』ですし、お芝居という意味では『スリル・ミー』です。

 グランドミュージカルでは、役者は作品の中のひとつのパーツなので、それぞれが自分の任務を全うすることで作品として完成します。

 だけど『スリル・ミー』のような二人芝居では自分のちょっとした瞬きや息づかいが芝居の中ですべて意味を持ってしまうんです。僕そのものが『スリル・ミー』という作品になっていく、ということを初めて体感しました。

 この演出をなさった栗山さんとの出会いも大きかったと思います。栗山さんとのお稽古を通して、発見や驚き、喜びを感じ、100分間出ずっぱりの本番では劇場で自分が役として生きていることを実感できたのも初めての経験でした。それをお客さんにもキャッチしていただいて、作品のファンが増え、僕を知ってくださった方もたくさんいらしたと思います。『エリザベート』と『スリル・ミー』はどちらも再演を重ねていて、僕自身のキャリアでも何度も出演させていただいている大切な作品です。

『レ・ミゼラブル』よりビッグな作品が生まれるかも

――オペラとミュージカル。それぞれのどんなところがお好きですか?

 オペラは原語で歌うので日本で観る場合は字幕や音として楽しむことが多いんですが、ミュージカルは各国の母国語でダイレクトにお芝居や台詞、歌を楽しむことができます。

 また、ミュージカルは、その時代をすごく反映しているのに対して、オペラの定番で上演されている作品は新しくても100年くらい前で、さらに古いモーツァルトの時代だと250年くらい前になってしまいます。いわゆる古典の作品が現在もスタンダードとして上演されていて、2000年以降の新作のオペラは一度上演されてもなかなか再演されない状況が多いと思います。

 一方でミュージカルは毎年新作が生まれてトニー賞などで評価された作品が各国で再演されることもありますが、オペラにくらべるとまだまだ創成期ですね。でもこれから『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』よりも、もっとビッグな作品が生まれるかもしれません。

 古典のミュージカルを演じるのもすごく楽しいですし、今後新しく誕生した作品を日本のオリジナルキャストで演じることなどを考えると、ミュージカルのこれからがすごく楽しみです。そういう喜びがミュージカルにはあると思うので好きですね。

2024.07.09(火)
文=山下シオン
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=小森真樹(337inc.)
スタイリスト=ゴウダアツコ