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「完全ににわかファンです(笑)」

――結構なスピード感で作られたんですね。元々バスケットボールはお好きだったんですか?

 いや、それが全然(笑)。オファーをいただく前から、ワールドカップは見ていましたが、たまたまテレビをつけたら、2試合目のフィンランド戦が放送されていたという感じで。ただ、その試合を見て、「日本ってこんなに強いの!?」って一気にハマって、そのあとはビールを片手に観戦を楽しんでいました。でも、バスケの基礎知識はありませんから、フィンランド戦後に選手たちがなぜ泣いていたのか、涙の意味も分からなかったですし、オーストラリア戦は仕事で見られなかったし、完全ににわかファンです(笑)。

 だから、最初は「90分に5試合なんて入らないよ」って、勝った試合と五輪進出が決まったカーボベルデ戦にだけフォーカスして、ドイツ戦とオーストラリア戦は端折ろうと思っていたぐらい(笑)。

――ゼロからのスタートという感じだったんですね。

 そうですね。だから僕の中では、この映画はハンデ戦だと思っていて、プレッシャーもものすごくありました。というのも、テレビで初めてバスケのワールドカップを見たという僕のような人と、Bリーグの試合を、お金を払って会場に行って応援しているファンでは、バスケに対する熱量が違うわけです。中には試合開催地の沖縄まで足を運んだ人もいるかもしれない。そういう熱烈なバスケファンの方が見ても満足できる映画を作らなきゃいけないわけです。

 そこで最初に話をいただいた11月から、実際に撮影が始まった2月まで、めちゃくちゃ勉強をしましたし、ワールドカップの試合映像は5試合すベて50回以上は見直しました。ワールドカップに関して言えば、日本の誰よりも見た自信があります(笑)。

――テレビ番組ではご自身で現場取材をされると思いますが、今回の映画は既存の映像を多く使っていますよね。普段と違う作業も多かったと思うのですが、どんなことに注意をしていましたか?

 まず、今回の映画の大きなテーマの1つが「追体験」でした。

 今回、素材となった試合映像はFIBAの国際映像だったので、テレビ中継のような実況や解説は入っていないんですね。実況が入っていないということは、床を鳴らすボールやバッシュの音、ファンの声援がダイレクトに聞こえてくるということ。つまりテレビで見ていたときと、受ける印象が全然違っていたんですね。最初に映像を見たときは「現地ではこれを見て、これを聞いていたのか」と驚きましたし、僕が作るものはこの現場感を再現しなくてはいけないと強く思いました。

 テレビの実況が入っているものをもう1回繋ぎ直しても、それはテレビの特番でしかないですよね。そこで実況も解説も省いて、生の音を伝えることにしました。代わりに、多少の解説は必要なので試合展開のナレーションスペシャルブースターとして会場にいて、現場の熱量を知っている広瀬すずさんに、ナレーターをお願いしました。

 それと、テレビは、狙うべき視聴者層は時間帯にもよるので、誰が見てもわかりやすく作ることを求められることが多いのですが、映画ではバスケファンの方に満足していただきたいと思い、基本的なルール説明などのナレーションは極力除外しました。

2024.06.06(木)
文=林田順子
写真=石川啓次