草彅 僕もね、映像を観て「あれっ、声が違うじゃん」とびっくりしたの。京都撮影所で時代劇を撮るって、タイムスリップしたような感覚になるんですよ。自分が意識していないところまで作られていく。「俺、ちゃんとやってんなあ。できちゃってんなあ」と感心したんだけど(笑)、そうなれる環境を周りが作ってくれているんだよね。とくに時代劇はかかる労力が現代劇と全然違いますから。やっぱり一人で構築できるもんじゃないですよ。どの作品もそうですけど、みんなの力が重なって、そこに役が乗っていく。

 扮装の力も大きくて、ものすごく時間をかけて格之進としての見た目を仕上げていただいているうちに、姿勢もしゃんと伸びていく。本当に「武士です」という佇まいになるんだよね。

―― その時代に、役に、自然と入っていくんですね。敵を追い求めて旅をするうち、徐々に髭がぼうぼうと生え、肌や着物が汚れていく様も凄まじかったです。キービジュアルの横顔もまるで別人のようで。

草彅 とにかくね、付け髭が痒くて! 普通に伸ばしても僕はあんなに生えないからねぇ。今の特殊メイクってすごいんですよ。大きい髭だけじゃなく、一本一本、肌に付けたりもしているの。それがもうめっちゃ痒くて。花粉症で鼻をかむたびに髭を付け直すわけですよ。それはもう大変だったんです。

 あと肌の汚れはね、泥塗ってんの! 仇役の(斎藤)工くんと会うまでに、どんどんどんどん汚されて……。泥もまた痒いのよ、乾くとカピカピになってきて。でもとっちゃダメなの、シーンの繋がりがおかしくなっちゃうから。顔が毎日すっごいボロボロになって、枯れていく感覚でした。

―― 凄まじいですね……。でも黒く汚れた肌の中だからこそ、らんらんと光る眼の強さが際立っていました。格之進の「極限状態でも折れない誇り」を体現したビジュアルですね。

草彅 すごい仕上がりだったでしょ? 僕の特殊メイクは、ディメンションズの江川師匠(メイクアップディメンションズの江川悦子代表)がやってくださって。大河ドラマ(『青天を衝け』の徳川慶喜役)でもお願いしたんです。僕、大好きなんですよ。本当にプロ中のプロ。こういう特殊メイクは江川師匠じゃないと絶対に嫌なんです。僕の顔を熟知しているから、すごく自然で、取ってつけたようにならない。あの「襤褸(ぼろ)の美学」は、ディメンションズの江川師匠じゃないと作れないですよ。

―― エッセイ『Okiraku』では『任侠ヘルパー』撮影後、「(役が普段にも残って)顔がキリッとしてる」と振り返っていましたが、格之進を演じ終えてからの“顔つきの変化”は感じますか?

草彅 5歳若返った! ほら、髭からも泥からも解放されたから(笑)。撮り終わって自分の顔を見たら「なんか俺爽やかだ、顔、綺麗だった!」と思って。それくらいクリーンになっちゃった!

「僕はただ枯れて朽ち果てていくんじゃなくて、再生しながら抗っていきたい」草彅剛が“怒れる武士”を演じて切り開いた「役者・アイドルとしての新境地」〉へ続く

2024.05.26(日)
文=「週刊文春」編集部