―― 格之進が濡れ衣を着せられ、切腹しようとする場面ですね。

草彅 あんなに健気で可愛らしい娘がいるのに……。「切腹なんかしようとしやがって! なにやってんだ、この父親は!」と憤りました。まったく、ひどいお父さんですよ!

京都撮影所で突如降りてきた“閃き”

―― 草彅さんは撮影現場でも常に怒りを燃やしていたのですね。

草彅 うん、僕は格之進をすごく客観的に見ていたんです。だからこそ苛立ったし、その怒りで心を埋めることができたおかげで演じられた。でもある時、「あれ?もう一人、別の視点を持った自分がいるな」と気づいたんです。

―― 「客観的な怒りの目」以外に?

草彅 そう。格之進は敵を討つために旅へ出て、汚れてボロボロになっていく。そんななかでも己を貫き通す魂の強さはけっして変わらない。僕自身に、そしてこの現代においてもまったくない、強烈な輝きを秘めているように感じたんです。「ああ、これがテーマなんだ。俺は格之進の“魂の輝き”を表現しないといけないんだ」と突然閃いて! 白石監督もきっと同じ想いだったんじゃないかな。

―― 表裏一体ですね。草彅さんが苛立ちを感じていた、格之進の「何があっても己を貫く」姿は、一方で、強く惹かれる生き様でもあった。

草彅 そうそう! 「俺は今、格之進に怒っているけど、この感情の源こそが一番大事なんだ。『碁盤斬り』のもっとも大切な核なんだ」って。それに気づけた僕ってカシコイよね(笑)。格之進の魂の輝きを表現しなければ、この映画は成功し得ない。絶対に曲げない強さ、「もう折れればいいじゃん」と苛立ってしまうほどの誇り高さに近づきたい、掴みたいって日々もがいて……あれ、僕なんだかカッコいいね⁉(笑)

 

「俺って顔、綺麗だったんだって(笑)」

―― 格之進は「水清ければ魚棲まず」と例えられるほど謹厳実直です。『碁盤斬り』クランクインの直前まで演じられていた『罠の戦争』の主役・鷲津亨も、当初は忠義を尽くす真面目な男でした。そして格之進も鷲津も、不義理を働かれ、復讐を決意する。「仇を追う怒れる男」という点では共通していますが、同じ怒りでも、両者は眼の光、発声の仕方から何からまったく異なります。格之進は武士だからなのか、腹の底から怒声が轟いているように感じました。

2024.05.26(日)
文=「週刊文春」編集部