この記事の連載
- 『東京クラッシュ 男は星の数ほどいるけれど』#1
- 『東京クラッシュ 男は星の数ほどいるけれど』#2
日本人の友人に教わった、「敬語」をやめるタイミング
セイナによれば、出会ってから数回のデートのあと、あるいは“告白”のあと、敬語は使われなくなるという。ちなみに、告白とは相手に気持ちを伝えることで、正式に交際を始めるきっかけになる。
それでも、中には数カ月も敬語を使いつづけるカップルもあるらしい。「セックスしたり、ケンカをしたりすると、それがきっかけとなって、敬語を使わなくなるもんだよ」セイナがそう説明してくれた。つまり、敬語はふたりの関係を始める最初の一歩というわけ。
同様に、相手を名字で呼んでいるか、それとも名前で呼んでいるかで、ふたりの人間関係がわかる。名前の後ろにつける「敬称」も然り。フォーマルな、「ムッシュー」「マダム」のような呼び方で、客に対しては「〇〇さま」、丁寧語で話す相手には「〇〇さん」と呼びかける。そして、親しい間柄になると、「〇〇ちゃん」や「〇〇君」となる。
バイト先の居酒屋では、スタッフは全員わたしの先輩なので、わたしは当たり前のように「ヴァネちゃん!」と呼ばれていた。その後、フルタイムで働いた会社では、「ヴァネッサさん」と呼ばれた。ちなみに、日本人スタッフは名字で呼び合っているのに、外国人スタッフは圧倒的にファーストネームで呼ばれることが多い。
ナイトクラブでも礼儀正しい日本人男性たち
日本ではナイトクラブでさえ、男たちはルールにしたがって女性を誘う。クラブは、「ナンパとパリピの巣窟」と呼ばれている。だから、気をつけるように言われていたにもかかわらず、実際に行って、自分自身で確かめたのだから間違いない。“パリビ”とはパーティー好きな人々のことで、「パーティー・ピープル」という言葉からきている。
その夜、わたしは日本語学校の仲間たちと渋谷に集合した。人混みを縫うようにスクランブル交差点を渡り、わたしたちは外国人に人気のクラブ、WOMBに向かった。入口で身分証明書を見せ、ロッカーに荷物をあずける。一瞬、プールに来たような錯覚を覚えたが、それを除けば、どこにでもあるようなごく普通のクラブだ。人であふれたダンスフロアにバー、きらめくミラーボール……。想像していたような派手な装飾もない。
わたしはふたりの日本人男性から誘われた。「はじめまして(ナイス・トゥ・ミート・ユー)」と言って、手を差しだす。わたしがその気がないジェスチャーをすると、ふたりとも「お邪魔しました」と頭を下げ、「楽しんで!」と言って、礼儀正しく立ち去った。
東京クラッシュ 男は星の数ほどいるけれど
定価 1,760円(税込)
ハーパーコリンズ・ジャパン
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2024.05.03(金)
文=ヴァネッサ・モンタルバーノ
訳=池畑奈央子