受け入れがたい現実。それまで全力を注いで応援してきた歳月を全否定された気がした。彼を思って過ごした自分の幸せな時間まで否定しなければならないの?
そんな思いで始めた同好の士への行脚。みんな全人生をかけてそれぞれの「推し」に精力を注ぎこんできた“オタク遍歴”がある。許しがたい出来事に直面したからと言って、そう簡単には解消できない。
同じ事件で立件された別の男性歌手のファンは、これまで集めてきたCDなどのコレクションを前に語る。
「これを引っ張り出す前は彼がすごく憎かった。だけどなぜか今は…彼の悪口が言えない…。私、何言ってるの? ヤバいよね」
それに監督も応える。
「正直、アルバムは捨てられるけど、サインは無理。捨てられないでしょ。だって、これ(サイン)を書いた時の彼は…、私、(彼を)かばってるね」
女性同士の対話から率直に語られる葛藤
この映画には一つ特筆すべき特徴がある。それは、徹底して女性の視点で貫かれていること。なにせカメラの前でインタビューに答えているのは全員が女性だ。その女性たちに話を聴く監督も女性で、自らも映画に出ている。
女性ファンの応援で成功した「推し」たちが、同じ女性の尊厳を踏みにじる犯罪を犯したことが許せない。でも同時に、その「推し」が大好きで応援してきた自分もいる。
そのことが結果的に「推し」の犯罪に加担したことにならないだろうか? そんな葛藤が率直に描かれている。
監督の「推し」の性加害疑惑を早い段階で記事にした記者がいる。やはり女性だ。いまだに「推し」たちをかばい続ける一部ファンの心理についてこう語った。
「パク・クネ元大統領を支持する人たちと同じ心理じゃないですか?」
有罪判決を受けた元大統領は無実だと主張する人たちと、性加害に問われたスターを今も支持するファンは根っこで同じという指摘。そのパク・クネ元大統領も女性だ。
2024.04.19(金)
文=相澤冬樹