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いまも毎度「ゼロ地点」に立って撮影に臨む

 『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』のページをめくっていると、つくづく思う。よくぞ毎度イメージや撮影のアイデアを思いつくものだと。上記の「10分・5カット」の撮影では、与件を見つめ直すことで撮影法を導き出しているが、いつもゼロから方法論を編み出しているのだろうか。決まった「撮影の方程式」みたいなものはない?

「決まったものはありません。仕事にはそのつどたくさんの要素が絡んできますから、方程式に当てはめるようなやり方はかえって難しい。それに自分としても、やっぱり毎回ゼロから考えたくなるのです。

 長く仕事をしていれば、自分のなかにある過去の成功事例に照らしてベースの部分は変えず、『7』か『8』くらいからスタートすることはできます。仕事を頼む側だって『過去のあの仕事のトーンでやってほしい、そんな新しいこと求めてないから』というところもあるでしょう。

 そうなるとかえって天邪鬼の性質が頭をもたげて、絶対に相手が予想もしてないものを出してやろうという気持ちになってしまいますね。すこしでも長く見る人の目を留め、記憶に残るものにしたいですから。そのためには、人の心がぐっと動く写真とはどういうものか、とことん追求しなければいけません。ひとつの気づきとしては、自分が撮っていて感動したり興奮した気持ちは、写真にはっきり表れるようです。ならば写真家側は、いつもゼロベースで撮影をスタートさせて、感動したり興奮したりしながら撮ることを続けるしかありません」

 四半世紀にわたる仕事をまとめ上げた作品集から、瀧本幹也という写真家は一時たりとも進化と変化をやめないことが見てとれた。では私たちは今後、どんな瀧本作品を見ることができるだろうか。

「コロナ禍を機に撮りはじめた花の写真やお寺の写真を、本のかたちにまとめているところです。身も心も閉じこもりがちだった当時、写真を撮ってるときが唯一、心の潤う時間でした。自分は写真に助けられたという気がしました。

 写真には人の心を動かしたり救ったりする、不思議な強い力があると僕は実感しています。広告写真であれ個人的な写真であれ、これからもその力を伝えていくことができたらと思っています」

Mikiya Takimoto Works 1998-2023

定価 9,900円(税込)
青幻舎
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瀧本幹也(たきもと・みきや)

1974年生まれ。広告写真やCM映像をはじめ国内外での作品発表や出版など幅広く活動を続ける。写真と映像で培った豊富な経験と表現者としての視点を見いだされ、是枝裕和監督から映画撮影を任され『そして父になる』、『海街diary』、『三度目の殺人』と独自の映像世界をつくり出している。代表作に、『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』、『SIGHTSEEING』、『LOUIS VUITTON FOREST』、『LAND SPACE』のほか、『Le Corbusier』、『CROSSOVER』など。

『Mikiya Takimoto Works 1998-2023』刊行記念トークイベント 瀧本幹也×正親篤

日程 2024年4月6日(土)
時間 16:30~18:00
開場 16:00~
料金 1,540円(税込)
定員 100名
会場 青山ブックセンター本店 大教室
https://aoyamabc.jp/products/0406-mikiyatakimotoworks19982023

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2024.04.04(木)
文=山内宏泰