この記事の連載
- 瀧本幹也インタビュー #1
- 瀧本幹也インタビュー #2
広告の現場で写真家は、ゴールを決めるストライカー
本書に載るクライアントワークとは別に、瀧本さんには自身の作品も数多い。世界各地の観光地を取材した『SIGHTSEEING』、人工と自然それぞれの極点とも呼べる光景を撮った『LAND SPACE』……。
それらと広告の仕事では、つくり方に大きな違いがあるのだろうか。
「撮っているときの意識は、作品でも広告でもほとんど変わりません。広告の仕事でも幸いなことに、自分の写真のトーンを欲していただくことが多いですし。
ただ、関わる人数はまったく違ってきますね。作品があくまでも個人の営みであるのに対し、広告はチームワークでつくっていく。まず発注者がいて、企画を立てる人がおり、アートディレクションも入って……と、たくさんの人が関わってくる。そうした仕事の大きい流れがあるなかで、写真のパートを担うのが自分だというつもりでいます。
仕事の一端を責任持って担うのはもちろんいいことなのですが、関わる人数が多いとそれぞれの仕事が、クリエイティブではなく事務的な作業になりがちなのは問題です。ものづくりの雰囲気を広告の現場でいかに生み出せるかといつも考えています。
チームワークであることのほかにも、広告の仕事は予算や納期や立場や人間関係……、さまざまな事情をはらみながら進行します。それらすべてを聞き入れていると、角が取れたつまらない表現になってしまったり、さらには表現と呼べないものになる恐れもある。
そこで写真家としては、いろんな条件を横目でにらみながら、その状況下で最もいい表現を成立させることに心血を注ぎます。広告の現場における写真家をサッカーにたとえてみると、シュートを打ちゴールをねらうフォワードでありストライカーの立場にあると思います。チームの皆が各ポジションについてパスを回し相手陣内へ攻め込んでいった末、最終的にボールを回してもらいゴールを決めるのが写真家です。
写真家としてはその役割を肝に銘じて、監督やコーチの指示がどうあろうと、観衆が歓声を送ろうともブーイングを浴びせてきても動じることなく、試合時間内にゴールを決めることに集中します。途中のボール運びがいくらうまくいっても、シュートが入らなければ仕事としては失敗とみなされてしまう。絶対に自分が得点を入れるという責任感は常に感じていますね」
なるほど「広告写真家=ストライカー」論というわけだ。広告の仕事では写真家の自由にできる余地が少なくて、表現者として満足できないのではないかとも勝手に想像していたが、勝敗を決するストライカーを任じているというのなら、やりがいも大きそうで納得がいく。
「まあへそ曲がりなところがあるので、言われたことをそのままやるのがイヤなだけとも言えますが。各現場で求められていることはもちろんわかるけれど、求められた分をそのまま返すのでは芸がないと思って、ついそれ以上のことをしたくなる。もっとこうできるんじゃないか? とどこまでも可能性を追求したいですし、妥協なく突き詰めてこそ、人の心に深く刺さるものができるんじゃないかと思っています」
2024.04.04(木)
文=山内宏泰