「ピンピンコロリ」で亡くなった兄と姉がうらやましい

 老耄ねー、もうそれ、忘れました(笑)。片っ端から忘れるんですよ、100過ぎますとね。父が筆を折ったのは、戦争とか母の考えとか、私が嫁にいかずにウロウロしていたとか、いろんなことがあった上で現実が決まっていったわけですから。それが人間の人生の難しいところです。

 私も、普通のおばあさんですよ。そんなに特別に力のあるばあさんでも何でもない。他にできることがないから書き続けたので、いわゆる普通のおばあさんとしてできることがあまりないわけですよね。だからやっぱり、変なおばあさんになっちゃう(笑)。

――『血脈』で印象的なのが、佐藤さんの兄と姉がいわゆる「ピンピンコロリ」で亡くなること。ハチローさんは勲三等瑞宝章の伝達式の日に牛肉を口に入れたところで亡くなり、姉の早苗さんはスキー旅行を中止するという電話を友人に入れた翌日、部屋で倒れているのが見つかった。うらやましい。

 私もうらやましいですよ。ほとんどの人がうらやましいと思うでしょう。2人がどうしてそうなったかって、やっぱりわがままに生きてるといいんじゃないですか。

 

佐藤家は逸話の一家

「死にたくない」とか、「死んだらいいところに行きたい」とか、「死んだらどうなるだろう」とか、そういうことを考えるより、わがままに生きる。余計なことをあんまり考えないで生きていると、なかなか死にませんしね。

 佐藤家で一番長生きだったのは、私のおじいさんだったんです。弘前藩の下級武士だった人で、90いくつで亡くなりました。もう弘前で知らない人がいないっていうくらい、うるさ型で。逸話もいっぱい残ってるんですけどね。

 とにかく佐藤家は逸話の一家なんです。父の弘前時代の逸話はろくでもなくてね、中学が火事で燃え始めたっていうときにいち早く駆けつけたけど、消すんじゃなくてもっと燃えろって、羽織であおったっていうんですから(笑)。

2024.04.07(日)
文=矢部万紀子