こればかりは簡単に諦めるわけにはいかんのです

 それにしても103歳なんてお化けですね。よう生きとるなあと自分でもびっくらでございます。じゃがさすがに足が弱ってきました。家の前の坂の上り下りが、退院してからはまだ思うようにできんのです。長いこと「これを行き来できるうちは大丈夫」って自分に言い聞かせてきたん。だから、こればかりは簡単に諦めるわけにはいかんのです。

 坂の下のガレージにタッタッタ(愛車のシニアカー)がおってくれます。たどり着けたら墓参りにも集会所にもターッと連れて行ってくれる。まだ本気出しとらんだけ。えっちらおっちら、塀をつたって練習せんといけませんなあ。

 昨日はね、よりちゃん(近所の兼久世利子さん、70歳)に電話したんです。私が退院して家に戻った日に寄ってくれたっきり、半月も顔を見せんからどうしょうるんかと思ってね。そしたら夏風邪ひいてるって。

 心配じゃから今日はよりちゃんの家に様子を見に行こうと思ってました。気になりだしたら心が急いてね。ここから1.2キロくらいかねえ。ほうてでも坂を下りてタッタッタで行くぞと算段しよったら、今朝ひょっこりよりちゃんがうちに来てくれて。思いが通じたんかね。元気そうでほんまによかった。

心だけは忙しゅう動きます

 あの子はね、私より30歳ほど若いんですが妹のような存在です。昔から慕うてくれて心安いの。一生懸命に野菜を作って、地域のお世話もしてくれる働き者なん。最近、関節リウマチで手が痛んで車の運転をやめたんじゃそうです。体が弱いから心配です。

 こうやってなんとか一人暮らしをさせてもろうとります。できんことが増えて悔しいねと思う気持ちと、いろんな人に支えてもらってうれしいねと思う気持ちと。体は思うように動かんけれど、心だけは自由です。ドクンドクンと活発に動くんでございます。こちらはさびついとりませんよ。何ごとも思い切り喜んだり、悲しんだりして、ああ今日も生きたぞと感謝する日々なんでございます。

石井哲代さん103歳がふりかえる、“山あり谷あり”だった夫婦の時間「私たちには子どもがいませんでしたが…」〉へ続く

103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること

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文藝春秋
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2024.04.05(金)
著者=石井哲代、中国新聞社