12歳の頃に韓国からカナダに移住したノラ(グレタ・リー)には淡い恋心を抱いていたヘソン(ユ・テオ)という存在があった。それから24年……。ふたりがニューヨークで再開する7日間を描いた映画『パスト ライブス/再会』が、アカデミー賞で作品賞、脚本賞の2部門にノミネートされ注目を集めている。

 本作は、A24と韓国CJ ENM共同製作し、韓国系カナダ人のセリーヌ・ソンが初めてメガホンをとった。幼い頃に韓国からカナダに渡り、大学で心理学を専攻した後に、劇作家をしてきた彼女の自伝的な作品となっている。2月にも、彼女は韓国系監督としては初めて全米監督協会賞で新人賞を受賞したばかりだ。

 映画の中で、幼馴染のヘソンを演じているのが映画『権力に告ぐ』やドラマ『保健教師アン・ウニョン』などに出演してきた俳優のユ・テオである。この役にどのような経緯でたどり着いたのだろうか。

ドイツ出身。韓国を拠点にしたのは30歳目前から

「オーディションではまず、数行のセリフが送られてきて、そのセリフを自分なりの解釈で演じたものと、監督がどのようなことを求めているのかを想像して演じたものと、2パターンを自分で撮影して送りました。二週間後に監督のセリーヌから連絡があり、ZOOMで直接話すことになりました。普段、そのような監督とのセッションは30分とか一時間くらいで終わることが多いんですが、このときは3時間も監督とのセッションが続きました。というのも、脚本の全部のセリフを、いろんなパターンで読むことになったんですね。緊張はしましたけど、手ごたえを感じました。その一週間後にヘソン役に決まったよという朗報をいただきました」

 ユ・テオはドイツで生まれ、高校卒業後にアメリカやイギリスに渡り、俳優となった。2006年からは韓国に移住して韓国の作品でも活躍している。彼が俳優になるきっかけはどんなものだったのだろう。

「幼い頃は、アートやパフォーミングには縁のない環境で育ちました。どちらかというと、スポーツに熱中していて、バスケをやっていました。ただ、怪我をしてしまって、その後の進路を考えたときに、当初は理学療法士になりたいと考えていたんです。ただ、大学に入るまでの間に、スポーツとはまったく違った世界に触れたいと思って、ニューヨークのパフォーミング・アーツや映画の学校を探しました。

 そして、自分の好きな俳優が講師をしているリーストラスバーグ演劇学校に入ることになりました。そこで学び始めて、2週間が経った頃、演じるということはスポーツをしているときの高揚感に近いなと思ったんです。バスケのコートやサッカーのフィールドもステージなようなもので、そこでうまく自分を見せたら拍手を送ってもらえる。その高揚感が好きで自分はスポーツをしていたんだって気付いたんですね。

 ただ、学校が終わったら、理学療法士になるつもりだと学校の先生に告げたところ、彼女から『あなたはパフォーマーに向いている』と言ってもらって、マスタークラスに進むことになりました。彼女がくれた自信があったからこそこの道に進めたし、俳優という職業に“縁”があったのかなと思いますね」

 この“縁”というのは、『パスト ライブス/再会』の中でも「イニョン」として登場する。映画の中では、アジア的な概念として重要な意味を持っている。

2024.03.09(土)
文=西森路代