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やりたい気持ち更新中。“おっかない”を乗り越えて

――右近さんのまた新たな世界が広がりそうですね。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して、ようやく世の中が活気を取り戻しつつあるこのタイミングで、というのは何か影響していますか?

 特に意図したことではないんです。ただ世の中で何かが起こるタイミングと自分に起こる変化というのは、不思議にリンクしている気がしています。コロナで劇場が開けられなかったのは衝撃的なことでしたが、その時期にいろいろなメディアに出演させていただく機会を得て、そこから仕事の幅が広がっていきました。

――2021年、右近さんの世代が中心となっての「三月花形歌舞伎」の幕が南座で開き、それから毎年の恒例となりました。

 舞台がなくて寂しい時期が続いた後だっただけに、あの時はやりたい気持ち、何としても食らいついていこうという思いでハンパない勢いと集中力でした。これを超えることは生涯ないだろうと思ったのを覚えています。

――上演されたのは『義経千本桜』。今、振り返ってもその時がマックスですか?

 いいえ、やっぱり今が一番で気持ちも思いもすべて更新中です。これまでのところは、ですが。いつかきっと思うように更新できない時は必ずやってくるのだろうと思います。でもその時にはまた違う対峙の方法というのが、自ずと出てくるのではないかと思っています。そういうことも含めてやり続けるということは面白いな、というのが素直な実感です。

――継続は力なり、でしょうか。

 「三月花形歌舞伎」のように恒例になったものは、さらに充実させていかなければならないですし責任は大きくなる一方。自分にとっての意味合いは少しずつ変わっていくものだと感じています。20代の頃はいいお役をいただきそれがさらに良くなっていくことが自分にとってのエネルギーで、それだけでいっぱいでした。

――いつごろから責任を意識し始めたのでしょうか。

 やはりきっかけとして大きかったのは、(2022年5月に)歌舞伎座で(『弁天娘女男白浪』の)弁天小僧をやらせていただいたことです。

――音羽屋ゆかりの大切な役を、歌舞伎座の、しかも團菊祭で勤められたのは快挙でした。その後も本当に充実した活躍が続いていますよね。

 可能性は自分からつかみ取って成功例を積み上げていかないと、新たなフェーズには入れない。そんな思いです。1月の『狐狸狐狸ばなし』のおきわもまったく未知の領域でしたが、こうした役もやれるのだということをお客様にお見せするだけでなく、何より自分自身に証明したいと思いました。

――新しいことに踏み出すって、勇気がいりますよね。

 おっかないです。でもよく考えてみたら、生きていておっかなくないことなんてひとつもないんじゃないかという気がするんです。何をやっても周囲の人を巻き込むし、お客様には見られるわけで、やる以上は責任がある。それにおっかない思いをしてやった事の方が印象に残っているし、たとえそれで失敗してもその時の、例えば恥ずかしいことだって、後になると思い出になっている。

――“おっかない気持ち”を乗り越えるのに必要なことは?

 ひとつひとつのことに丁寧に向き合うということに尽きると思います、面倒くさがらない、あきらめない。状況を変えていくのは自分次第ですけれども、目に見えない存在の大きな流れに乗ることも重要でないかと思います。置かれている状況に感謝しつつも自分の欲求を持ち続けること、ではないでしょうか。

――そんな日々はまだまだ続きそうですか?

 特に今年はそれがひとつのテーマになるような気がしています。これまでの自分からの脱皮。安心材料のあるものに甘んじることなく、不安があるものにも足を踏み入れる。今年も8月に開催する「研の會」でもそんな尾上右近をお見せしたいと思っています。

三月花形歌舞伎

2024年3月2日(土)~24日(日)【休演】7日(木)、14日(木)
午前の部(松プロ)玩辞楼十二曲の内 河庄(かわしょう)、忍夜恋曲者 将門(しのびよるこいはくせもの まさかど)
午後の部(桜プロ)女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)、忍夜恋曲者 将門(しのびよるこいはくせもの まさかど)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/854

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2024.02.09(金)
文=清水まり