アランの菜園では馬が畑を耕している!
セバスチャン アランは、何度も来日するなど、日本のことが大好きのようだね。日本料理の真理だとか技術なども、取り入れているように感じるが、どう思う?
アヤ 彼のあり方が、日本から影響を受けたものとは思わないわ。どちらかというと、彼自身のあり方が以前からそうだったのだと思う。だから日本の文化に彼も馴染めたのだと思うの。例えば、セバスチャンがさっき言っていたように、鴨の焼き方に対する正確さなどを鑑みても、それは本能的なものじゃないかと思う。ブリア・サヴァランも、「料理人にはなれるが、肉焼き師は生まれつきである」と言っている。私はアランが鴨を焼いていた時に、この言葉が思い浮かんだわ。
セバスチャン アランの菜園には訪れたことがある?
アヤ あるわよ、それは素晴らしいわ。自然のただなか、季節の野菜がたくさん育っている。そして、驚いたのは、馬が土地を耕しているの。それで、大変じゃないかアランに聞いたのだけれど、そしたら、「トラクターでこの大切な畑を耕すなんてことできると思うかい?」って。
セバスチャン 店作りからもよくわかるよ。すべてが和合しているからね。土壌、自然、皿、クリエーション、そして店の常連。今の若い世代の才能ある料理人たちの多くが、アランの店にいた経験があるというのも頷ける。彼らは技術だけでなく、フィロゾフィーを学んでいるんだな。
アヤ 私もこの間、彼のインタビューをしながら思ったのだけれど、もしも私が料理人だったら、この人に師事したかったわ。
セバスチャン アランが「本物のアーティストとは、自然そのもの」といったことがあったけれど、これこそが、アランの芸術へのアプローチなのだと思う。彼の偉大なる創造性は、大地が支えているんだ。
L'Arpège (アルページュ)
所在地 84 rue de Varenne 75007 Paris
電話番号 +33-1-4705-0906
URL http://www.alain-passard.com/
営業時間 12:30~14:30、20:00~22:30
定休日 土・日曜日
伊藤文 (いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。ル・コルドン・ブルー パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書にジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、グリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。食に関わるさまざまなジャンルの人々を日仏で繋ぐ、バイリンガルのウェブマガジン「食会」主宰。
食会 http://shoku-e.com/
セバスチャン・リパリ
料理コラムニスト、コンサルタント。国際的なガストロノミー会社「Food & Beverage」 のコンサルタントを15年務めた後、「Bureau d'Etude Gastronomique」を設立。アラン・デュカス出版の編集やCanal+料理番組のコンサルタント、多くのイベントのディレクターを務める。名シェフ、ティエリー・マルクスが会長を務めるアソシエーション「Street Food en Mouvement」の創始者で副会長。
Bureau d'Etude Gastronomique http://www.lebureaudetude.com/
Column
アヤ&セバスチャン パリ、男と女のフレンチ語り
滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。
2014.02.10(月)