その言葉に最初は混乱し、反発したように思います。

 スピードに勝るものはないし、たとえ間違ったとしても、走りながら修正したほうが、ノロノロ仕事をするよりもずっといい。だいたい、大事なことほど鈴木さんは早急さを求めます。ゆっくりやったら終わらないじゃないか、と。

 

 ぼくが、鈴木さんの言葉の意味を実感したのは、まったく逆の言葉を聞いたときでした。

「急がなくていいことほど、早くやれ」

 まるでとんちのようですが、鈴木さんは、ていねいに教えてくれました。

「人は、急がなくていいことをやらないでためてしまい、大事なことをやる時間を失っている。結果、急いでやらなければならないことほど大事なのに、わずかな時間で実行しようとし、事をし損じるんだ」

 そのためには、ひとりの時間をつくって、急がなくてもいいけれども、すぐできることを先に片づけてしまい、急がなければならない重要なことほど、じっくり時間をかけて考えて実行せよ、と言いました。

「急がなくていいこと」「急いでやるべきこと」とは?

「急がなくていいこと」とは、たとえば、業務連絡や共有事項の伝達、メールの返信、スケジュールの確認など、比較的いつでもできる仕事です。

「急いでやるべきこと」とは、機械的に処理できない重要な仕事です。

 ぼくの場合は、企画書の執筆、予算表の作成、プロットや脚本のチェック、制作過程の映像や音響の確認、宣伝素材の読み込みです。これに加えて、課題やトラブルに対応するための戦略を練ったり、人間関係の調整などがこれに当たります。

 営業職であれば、取引先への提出資料の制作や、お金まわりの整理、何よりも重要な、取引先への訪問などへの時間が、それに当たるでしょう。

 企画職、デザイン職であれば、新たなアイデアを生み出し、形にする時間がこれに当たります。

 朝喫茶店に入って、やるべき仕事を書き出し、簡単な仕事を片っ端から片づけていくのは前述したとおり。そのあいだも脳は、「急いでやるべき重要なこと」を考え続けているので、簡単な仕事をこなしていても、重要な仕事について、思いを巡らせていることになります。

 そして、ある程度脳のバッファーが空いたら、急がなければならない重要なこととじっくり向き合います。

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2024.01.17(水)
著者=石井朋彦