ドラマの締めでMISIAの声が聴こえてくる安心感

山口 さて、この曲は、ドラマのタイアップなんですね?

伊藤 はい、さっそく「S -最後の警官-」を観てみたんだけど、ドラマ自体はいかにも漫画が原作という感じ。個人的にはそんなに選んで観たい内容ではなかったけど、それなりに視聴率は取れそうかな……という印象。

山口 日曜日の夜9時と言えば、去年「半沢直樹」を放送したのもTBS日曜劇場でしたね。高視聴率を取った縁起がよい枠ですね。業界人は、そういうことを結構気にします(笑)。と言いつつ、このドラマ観られてないです。すいません。人気の原作だし、よいタイアップなのではないですか?

伊藤 そう思います。曲はエンディングでたっぷり流れていたんですが、ドラマの締めでMISIAの声が聴こえてくるだけでなんだか安心できる。思えば4年前に、やはりTBS日曜劇場の「JIN -仁-」をみた時にもMISIAの曲がエンディングで流れてきて、同じような安心感を覚えた様な気がする。もはや日本人に染みついた“「Everything」効果”と呼んでも過言でないかも(笑)。

山口 なるほど(笑)。MISIAが歌い上げてくれると、安心するということですね。その理由は何だと思いますか? 声質ですか?

伊藤 声質というよりも、安心感のある歌唱力とドラマチックなバラードが流れることがドラマのエンディングを呼び込むツールになっていて、MISIAの場合「Everything」という代表作があることで、その声は余計に安心感を与えるんじゃないでしょうか。

日本人がバラード歌手を好むのはハリウッド映画の影響

山口 日本人が、歌い上げるタイプのバラード歌手のことを好きなのは、何故ですかね? 昔からの伝統という側面もありますが、ブラックミュージックのテイストが入ったのは90年代以降だと思うのですが。

伊藤 ハリウッド映画の影響が大きいんですよ。『ボディガード』のホイットニー(・ヒューストン)であり、『タイタニック』のセリーヌ(・ディオン)であり、『アルマゲドン』のエアロスミスであるみたいに、ドラマチックなストーリーにはドラマチックなバラードみたいな。

山口 なるほど。面白い視点ですね。映像と音楽の相乗効果に定番的に安心すると。

伊藤 「Everything」以後の10年くらい、あまりMISIAの楽曲を聴く機会がなかったんだけど、たまたま5年位前に友達が彼女の曲を作曲したということでCDをもらって聴いたんです。でも予想していたものとは全然違って、なんか渡辺美里みたいな曲だなぁって。曲が悪いってことじゃなくて、世の中がMISIAに求めているものってこれじゃないのに……と思った。

山口 シンガーソングライターではないから、音楽的に変遷していく必要はあると思いますけれどね。今日的な流行も取り込んでいくとうのが、ディーヴァのあり方ですから。でも彼女からは社会意識も感じるし、しっかりと芯のあるアーティストとして、同性からの支持をしっかり獲得している印象があります。

伊藤 そういうアーティストだからこそ今回のバラード曲は、彼女が歌うに相応しいと思ったんです。

山口 そうですね。本人の作詞ですが、歌詞にもしっかりとしたイメージがあるのが、曲全体の説得力につながっていると思います。

伊藤  「愛は何より 全てを強く 美しく変えていくもの」というように、ちょっと崇高すぎる感じもするが、彼女だから歌うことのできるバラードど真ん中感。

山口 同感です。そんな大バラードへの、恒例の作詞アナリスト伊藤涼による、妄想分析は、どうなりますか?

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2014.01.27(月)