「目の前にきたことを楽しんでやってみる」
2012年には自身のコンサルティング会社「AROME(アローム)」を設立し、世界各国のクライアントからの要望に応える充実した日々を送る長江さん。最近では、中国の高級パティスリー「ブラックスワン」のための商品開発や、ベトナムでのガストロノミーイベントへの参加も。サウジアラビアの砂漠地帯で行われている大規模なプロジェクトでは、パティシエや料理人の指導、商品提案も手掛け、「私自身がとても楽しんでいます」と、話します。
コンサルタントとして長江さんが主義とするのは、その場に行って文化や気候を含めて状況を確認し、クライアントとキャッチボールをしながらシェフとして介入し、プラスアルファをもたらしていくこと。一方的に調査・精査し、アドバイスを送るのではなく、思いを共有し、アドバイスしながら一緒にものを作り上げていくことを大切にしていると言います。そのようにして周りを巻き込んで状況を動かし、より良いものを生み出していく力は、長江さんの大きな魅力であり、才能と言えます。
「驚かれるかもしれませんが、これまで自分から積極的に何かを選択したことは、まったくと言っていいほどないんです。ただ、良いタイミングで良い人に出会い、良い場所に行き、良い経験を得ることができたから、今の自分がいる。その時々で、『今、興味があるからやってみよう』、『今やらなくてはやらないだろうから、やってみよう』と、楽しみながらも責任感を持って、自分に妥協することなく全力で向き合ってきたことが、今に繋がっているのだと思います」と、長江さん。
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アスリートのような向上心と探求心を胸に抱き、エネルギッシュに、しなやかに。輝きを放ち続ける彼女の活躍に、これからも目が離せません。
長江桂子(ながえ・けいこ)
弁護士を目指して留学したフランス・パリでフランス菓子の魅力に引き込まれ、菓子の道へ。パリの料理学校「ル・コルドン・ブルー」でディプロマを取得し、パリ「ラデュレ」で修業。ロンドンのレストラン「スケッチ」、ヤニック・アレノが率いるパリ「ホテル・ムーリス」を経て、パリ「ホテル・ランカスター」ではミッシェル・トロワグロが手掛ける一つ星レストランのシェフ・パティシエに就任。パリ「ピエール・ガニェール」のシェフ・パティシエを務めたのち独立し、2012年、ガストロノミー界のコンサルティング会社「AROME」をフランスで設立。パティシエとして、パリを拠点に世界で活躍中。
2023.12.21(木)
文=瀬戸理恵子
撮影=志水 隆