この記事の連載
水谷緑さんインタビュー
【マンガ】『僕は春をひさぐ』第一話
「女風体験も精神科のターニングポイントと似ている」

――これまで水谷さんの作品を読んできたからこそ、本作のテーマはある意味、意外だったと感じる読者もいるかもしれません。
水谷 女風を体験した後で、本当は何がしたかったのかに気づくとか、がんばりすぎてたんだなと自覚するとか、自分というものへの気づきがある女性って多いんですよ。
精神科の診察を受けて、もっと自分らしく生きていいんだと肯定してもらえた、気持ちがすっきりしたという人がいて、女風体験もそうした精神科のターニングポイントと似ているなと思ったりしたんですね。
ちょっと距離を置いて自分を見てみたら、自分は誰かの妻だとか母親だとか会社員だとかの属性以前に、欲望まみれの普通の人間なのだとわかって解放されるのに近いですかね。
――本作で、女性たちが利用する動機として、事後に自分は女性として大丈夫なのかが確認できてほっとしている〈みささん〉や、夫と6年セックスレスで〈このまま私終わっちゃうのかな〉と思っていた〈たかこさん〉などの気持ちを知り、性欲以外の部分が大きいのだなと感じました。水谷さんは女性たちの声をどんなふうに受け止めましたか。
水谷 「彼氏ともあるんだけど自分の方が性欲が旺盛で物足りないから」という積極的な女性もいましたが、ほとんどは、優しいエスコートなどを受けて女性扱いされたいとか、パートナーに求められないイライラや不満があるとか、もっと単純に「誰かと触れ合う時間が欲しい」みたいなのもありました。
特に、コロナ禍のころ、人と直接関わる機会が減ってしまってからこのサービスを使うようになったとおっしゃってる方もちらほらいたので、コミュニケーションしたい欲が根っこにはあるのかなと。

水谷 「松坂桃李さんが主演した『娼年』という映画の人気や、そもそもYouTubeなどで性教育などに気軽に触れられる環境も大きい。それで、興味を持つ人が増えたのではないかと分析しているオーナーさんもいました。若い方はアラフォー世代とか上の方々よりずっと偏見がなくて、レジャー感覚で使う方もいます。
前の彼氏が怖すぎて男性恐怖症みたいになっているのだけれど、結婚はしたいから男性に慣れておきたい」という動機なんかもあります。
――冒頭で、〈4年前までは都内でも約5店舗しかなかったが、コロナ禍で急増〉〈現在250店舗以上、約4,000人のセラピストがいる〉と書かれていますね。利用客だけではなく、セラピストも増えているんですか。
水谷 実はイケメンじゃなくても若くなくてもなれるし、ニーズも幅広いそうなんです。コロナ禍で打撃を受けた風俗業界の男性が副業で始めるようになったというのも聞きました。
ただ、「女の人の体にさわれてお金をもらえるなんていいじゃん」みたいな、勘違いして応募してくる男性も多いらしいので、セラピストやお店の質も本当に玉石混交ですね。取材していると、クソピーの話もすごくよく出るんです。
2023.11.18(土)
文=三浦天紗子
写真=平松市聖