演じたい役があれば、自分でホン(脚本)を書く
――オダギリさんは2019年に自身の執筆したオリジナル脚本による初の長編監督作品『ある船頭の話』を手がけ、映画監督としても活動されています。監督としての立場から、実際の事件をモチーフにした小説の映画化についてどう感じましたか。
本当に勇気が必要なことだと思いますね。監督もプロデューサー陣も、この作品を世に投げかけたい人たちのチームなわけで。自分はまだまだ自分の範囲内で、描きたいことに向き合うのが精一杯だと思っています。
――オダギリさんは映画監督として、役者として、これからやってみたいことは何かありますか。
極論ですけれど、役者は役をいただく仕事なので、「こういう役を演じたい」というのは机上の空論のようなものなんですね。あるならば、自分で作るしかないんです。だから、もしこういう役を演じたいというものがあるなら、企画を上げ、自分でホン(脚本)を書いていくことが現実的だと思っています。
――脚本・監督・主演ですね。ご自身が制作に関わり、具体的に進行している企画は今あるのでしょうか。
いくつか動いているものがありますけど、まだ発表前で詳しくは言えないんです。後数年の間には形にしたいですね。
――どんな企画かとても楽しみです。ここ数年、オダギリさんはさまざまに活躍されていますよね。2018年に映画『エルネスト』ではスペイン語とボリビアの方言を習得して日系ボリビア人の革命家を演じ、2019年には脚本・監督作品の『ある船頭の話』が公開、2021年の石井監督作品『アジアの天使』では韓国のスタッフやキャストと協働し、2023年11月に日本公開となるロウ・イエ監督の中国映画『サタデー・フィクション』では中国やフランスのキャストと共演しています。国際的な活躍はご自身で意識されているのでしょうか。
国際的な作品だからとか、そこに優劣は全くありません。やりたいものをやっているだけで、日本の作品でも同じです。ただ、正直なところ、実際にやるとなると何ヶ月もその作品に(時間も体力も)捧げることになるので、愚作には関わりたくないんですよ。それだけですね。だから本当に厳選する必要があるんです。
――改めて、完成した映画『月』をご自身で観客として観た時、どのように感じましたか?
簡単には多くを語れなかったというか。自分のなかでいろいろと考えが巡りましたし、消化するのも時間がかかりますよね。そんなすぐに感想を言い合えるような気持ちにはなれなかったです。
世のなかいろんな映画があるじゃないですか。軽い気持ちで観られるものもあれば、泣きたいから観に行くものもあって。そんな中で、ここまでいろいろと考えさせてくれる作品にはなかなか出会えないと思うんですよ。それだけ深く突き刺さる作品だと思うし、下手したら一生、頭の片隅に残る作品かもしれない。そういう意味でも観てほしいですね。僕は、人生に1回ぐらい、こういう作品をずっしりと受け取るのも重要だと思います。
オダギリジョー
1976年2月16日生まれ。『アカルイミライ』で映画初主演。以降、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、『ゆれる』(06)、『悲夢』(09)、『宵闇真珠』(17)など作家性を重視した作品に出演し、国内外の映画人からの信頼も厚い。19年、『ある船頭の話』で長編映画初監督。第76回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に日本映画史上初めて選出され、同年『サタデー・フィクション』(日本公開は11月3日)がコンペティション部門に出品。待機作に「僕の手を売ります」(全10話)がFOD/Amazon Prime Videoにて10月27日(金)より配信開始。
映画『月』
2023年10月13日(金)新宿バルト9、ユーロスペース他全国公開
配給:スターサンズ
https://tsuki-cinema.com/
X(旧Twitter):@tsuki_movie
2023.10.12(木)
文=あつた美希
写真=釜谷洋史