自分も「さとくん」のような人間になり得ると思った
――この映画の登場人物を演じたことで、この物語への思いや考えは何か変わりましたか?
自分も「さとくん」のような人間になり得ると思ったし、彼を全否定できない気持ちが自分にあること自体、怖いことだと思いました。実際の事件としては許されるべきものではないし、完全に否定する気持ちは今も変わりませんが、この作品に関わることで色々なことを深く考える時間を持つことが出来ました。ニュースで見ている限りでは感じ得なかった感覚で、観客の皆さんも色々と感じることが多いんじゃないでしょうか。
――「さとくん」は磯村勇斗さんが演じる絵の好きな青年で、昌平の妻・洋子が働く重度障害者施設の同僚です。彼は理不尽な現実への怒りとやるせなさが限度をこえることで、歪んだ正義感や使命感による犯罪行為を実行してしまう。
石井監督は、「“さとくん性”を目覚めさせてしまうリスクよりも、“さとくん性”が自身のなかに眠っていることを自覚し、問うことが重要である」と話しています。オダギリさんはご自身について感じるその“怖さ”について、どのように考えていますか?
僕らは表現を仕事にしているから、うまくそこで気持ちを整理できているんだと思うんです。演じるということで現実を見つめ直したり、自分から少し距離を取ったり、表現でストレスを発散することもあると思います。現実は苦しいことが多く、やるせないことも多い。俳優は色んな役を通して、その苦しみを鎮める術や、共存していく方法を学ばせてもらっているのかもしれないですね。
2023.10.12(木)
文=あつた美希
写真=釜谷洋史