だが若手たちが宮崎駿の指揮のもとに描いた今回の『君たちはどう生きるか』の作画には、まさしく宮崎駿的としか言いようのない「世界の秘密」に触れるような絵が無数に重ねられ、アニメーションを構成していた。
公開後に明かされた参加スタッフの声によると、宮崎駿本人も体力の許す限りに絵を描き、手を加えたようだ。しかし本作を『ロンダニーニのピエタ』にしなかったのは、宮崎駿の後を追い、時には仕事をめぐり激しく対立し、一度は彼の元を去った弟子たちが彼の目となり手となったからだろう。日本アニメの次の世代の才能に支えられて、『君たちはどう生きるか』は見事な映像美を宮崎駿の作品史に残すことができた。
その一方で、やはり精神的にはこの映画には若い時代の希望に溢れた作品にはない、『ロンダニーニのピエタ』に通じるピエタ(慈悲、悲しみ)があるように思えた。
「僕にはもう時間が無いんです」と本田雄に語った宮崎駿の言葉は、決して脅しでもハッタリでもなかっただろう(同前)。高畑勲は2018年に死んだ。東映時代からの盟友、大塚康生は2021年に死んだ。ジブリの次代を担うと期待された近藤喜文は1998年に死んだ。ジブリの自然描写を支えた天才アニメーター二木真希子、色彩設計として絶大な信頼を受けた保田道世はともに2016年に死んだ。
そしてこの記事を書いている最中にも、『天空の城ラピュタ』や『火垂るの墓』の美術を支えた山本二三の衝撃的な訃報が飛び込んできた。宮崎アニメを支え、世界の秘密を分かち合ったスタッフたちは、1人また1人と世を去り続けている。
宮崎駿に影響を受けたクリエイターたち
《私は人間が作った芸術を消費し、愛しています。私は機械やテクノロジーによって作られたイラストレーションには興味がありません。人間の感情や表情をテクノロジーで再現しようというような会話が映画について交わされたとしたら、私は深く傷つき、宮崎駿監督が言うように、『生命に対する侮辱』だと思います》(Guillermo del Toro Says Animated Films Deserve a Shot At Best Picture: “The Craft Is Incredibly Complex”「DECIDER」2022年12月9日)
2023.09.23(土)
文=CDB