五感を震わせる体験が明らかに
テイスティングメニューは、シェフが愛してやまないオランダ産のムール貝やウナギ、そして日本のフレーバーもふんだんに使われた全6品。
ただし、実際にレストランで提供するメニューは未定で、「もっと日本に踏み込んで、さまざまな食材に出会い、イマジネーションを広げて考えたい。自分の感覚に忠実であることが、世界有数の美食都市である東京で認められる唯一の道だと思うから」と、ハーマン氏。その心意気に、がぜん期待が高まる。
この日のメニューはこの日限りというわけだが、アントワープの「ル・プリスティン」のメニューをアレンジしたものも多く、料理の方向性は示してくれたように思う。全体的に、素材の持ち味を活かした、みずみずしくミネラル感のあるテイストで、さまざまな酸味のアクセントが特徴的だ。皿などのテーブルウェアは、ハーマン氏がデザインしたオリジナル。実際のレストランでも使用されるものだという。
あくまで試食用とのことでこの日の料理写真は割愛するが、例えば、「鹿児島産シマエビ アボカド スイカ キャビア」は、ほんの少しの白だしで和に寄せた味わい。「ピッツェッタ 本マグロ ストラチャテッラチーズ すだち オランダ産トマス醤油 わさび」は、レアなマグロに醤油、ミルキーなチーズクリームの複合的な旨みに、海苔やわさびのアクセント。初対面でも仲良くなれるソウルメイトみたいなひと皿だ。
「ほうれん草のラビオリ グリーンアスパラガス えのき茸 ウニ オランダ産うなぎの燻製 バーベナ」は、意外性あふれる一品だった。日本人ではなかなか思いつかない素材選びと組み合わせに脳が一瞬バグるが「ん? ……いや、これはあり…かも…?」と、自分のなかの固定概念が揺さぶられ、ひと口ごとに新しい扉が開くようなワクワク感があった。
2023.09.12(火)
文=伊藤由起