潔い覚悟の先に

 時間にして約1時間ほぼ出ずっぱり。気力、体力、技術あらゆる面においてハイレベルなものが要求される作品を初役で踊りぬくだけでも相当にハードですが、それが『夏祭』と共に1日2公演というスケジュールで上演されるのです。記者会見で演目が発表された時そこに気づいた人は誰もが驚きを隠せませんでした。その様子を察知したのか、右近さんはきっぱりと次のように語りました。

「確かに体力的に大変ですが、それを見てくださいということが目標ではなく、大評判を得ることが目標。やり抜くのは当然で『夏祭』も『道成寺』もそれぞれをきちんと評価していただける舞台にしたいです」

 なんと潔い覚悟なのでしょう。そしてそれは「研の會」スタート当初からのものでもあります。

 記念すべき第一回の演目に迷わず選んだのは『鏡獅子』でそれは右近さんにとって特別なものでした。

「小津安二郎監督の映画で曽祖父(六代目尾上菊五郎)が『鏡獅子』を踊っているのを3歳の時に祖母の家で見てこれがやりたいと思ったんです」

 右近さんの歌舞伎人生は、「歌舞伎俳優になりたい」の前に「『鏡獅子』が踊りたい」ありきで始まっていたのです。印象深いのは夢の実現目前にして語ってくれた「(大切な演目だからこそ)最初の1回は敢えて自主公演でやる」「本当にやりたいことはまず自分の力で」という言葉です。

 技術も体力も必要とされる作品を初役で踊るのは高いハードルです。それを演者としてのみならず公演運営のすべてを担わなければならない、何もかもが初めての自主公演で上演するという選択をしてみごとそれをやり遂げたのです。

 以後、右近さんは音羽屋ゆかりの大役に挑む一方で、新たな見せ方を工夫した舞踊を上演したり、上演の途絶えていた作品に取り組んだり、さまざまな可能性にチャレンジしてきました。前回の公演では『色彩間苅豆 かさね』で主役の男女である与衛門とかさねを文楽人形との共演により、ダブルキャストで演じて舞台芸術の表現の幅を広げました。

 これらの経験を経て取り組む第7回、それは右近さん自身が語っているように「自主公演でなければこんな大変なことはできないというような充実した内容」となりました。

 「新たな第一回というつもりで挑ませていただきたいと思います」と右近さん。

 日本を代表する現代美術家・横尾忠則さんデザインによる特別ポスターがその門出を象徴しています。

研の會

【日程】2023年8月2日(水)・3日(木) 11:00開演/16:30開演
【会場】浅草公会堂
【演目】夏祭浪花鑑/京鹿子娘道成寺
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